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「男女別」標識が時代遅れになりつつあるNYオールジェンダー「最新トイレ事情」その後

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
「オールジェンダー・トイレ」はすべての人が対象。(c) Kasumi Abe

LGBTQやジェンダー関連の潮流として、2019年暮れに以下のような記事を書いたところ、多くの人に関心を持ってもらい、いまだにアクセスは多い。

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(* オールジェンダー・トイレは、ジェンダーニュートラル・トイレとも呼ばれ、近年設置数が増えている)

その後もニューヨークでは行政が主導で、「オールジェンダー・トイレ」へ転換する改革が進められている。

昨年12月23日には、クオモ州知事によって、トイレにまつわる人権法に新たに一歩進んだ内容が追加された。それは、以下の施設にあるすべての「個室トイレ」を、オールジェンダー(すべての性別)トイレ、もしくはジェンダーニュートラル(性別中立)トイレに転換するというものだ。

対象施設:

  • 学校、幼稚園、チャータースクール、コミュニティカレッジ
  • ニューヨーク州立大学、ニューヨーク市立大学
  • レストラン
  • バー
  • 商業施設
  • 工場
  • 州が所有もしくは運営に関わる建物

この法令は、2016年に可決された市の関連法に反映しており、州全体のトランスジェンダーおよびジェンダーノンコンフォーミングの人々が公共施設に平等にアクセスできるようにしたものだ。

写真:ロイター/アフロ

「男女別」標識は時代遅れになりつつある

法令は、新たにオールジェンダー・トイレの建設を強いるものではない。これまでつけられていた「男性用」「女性用」という性差の標識を「オールジェンダー」か「ジェンダーニュートラル」用の標識に変えよ、というものだ。

加えて慣習的に使われてきたピクトグラム(ズボン/スカート姿)や色分け(青/赤)なども考慮しなければならない

法令の発効日は先月23日だった。これは厳密な締め切り日ではなく、1つの基準(だいたいこの日をメドに転換せよという州からの通達)だ。それから1ヵ月が経ち、街がどのように変わったか見に行ってみた。すると、さまざまな施設内で、新時代の「トイレ改革」がさらに進み、可視化されていた。

ニューヨーク市内にあるデパートのトイレ。ずらりと並んだ右側のドアはすべて個室だ。(c) Kasumi Abe
ニューヨーク市内にあるデパートのトイレ。ずらりと並んだ右側のドアはすべて個室だ。(c) Kasumi Abe

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

車椅子の利用者もゆったりと使えるほどの広さ。(c) Kasumi Abe
車椅子の利用者もゆったりと使えるほどの広さ。(c) Kasumi Abe

法令では事細かに、内容が定められている。州は将来的に「オールジェンダー」で統一したい意向のようで、「ジェンダーニュートラル」という文字も許容しているが「オールジェンダー」という文字がより良いとしている。

また、読字障害や視覚障害を持つ人にも配慮し、文字だけではなく、ピクトグラム(絵文字)と点字をつける、ことも推奨している。

また一口にピクトグラムと言っても「利用者の性にフォーカスするのではなく、利用する目的にフォーカスすることが望ましい」とある。慣習的に使われてきた「ズボン/スカート姿」や「青/赤」というような固定イメージも、これから少しずつ排除されていくだろう。

上2つは理想的な標識例。下2つは使っても良いとされている標識例。(出典:p12.nysed.gov)
上2つは理想的な標識例。下2つは使っても良いとされている標識例。(出典:p12.nysed.gov)

ポイント

標識文字:「オールジェンダー」がより良い

ピクトグラム:利用する目的にフォーカスし、性を色分けしない

点字:入れる

標識を取り付ける位置についても細かく決まりがあり、迷った場合は「設計の専門家に相談のこと」とある。

このように州内では、新時代と共に、さまざまな改革が日進月歩でなされている。

ただし、すべてのトイレで変換が行われているかというとそうでもない。個室以外の公衆トイレや、公営の公園やビーチにある公衆トイレは今回の法令の対象外となっているため、未だ「男女別」となっているものも多い。特に後者(密室空間)は犯罪の温床となりやすい。そもそも夜間は公園自体が閉鎖されてはいるが、犯罪は日中でも起こりうる。

オールジェンダー・トイレへ転換することで発生する可能性のある問題もあるため、これらの場所の改革は慎重に協議されているのだろう。

市営や州営の公園などにあるトイレは未だこのような標識がある。Image: Pixabay by Marcel Gnauk
市営や州営の公園などにあるトイレは未だこのような標識がある。Image: Pixabay by Marcel Gnauk

すべての人が平等に気持ちよく利用できる社会の実現と、そこから発生するさまざまな問題の解決。州がこれらの課題を前に、今後どのように改革を進めていくか、注目していきたい。

(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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