Yahoo!ニュース

抗体検査が出会い系サイトなどで印籠として使われ始めた(障壁は高いが...)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NY州の教会で無料の抗体検査を受けている女性。(5月13日撮影)(写真:ロイター/アフロ)

歌手のマドンナが5月に入り、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の抗体持ち=陽性だったことを発表し、経済活動が一部で再開しているアメリカではますます抗体検査(Antibody Test)に注目が集まっている。

彼女のインスタグラムによると、3月に自身のコンサートの開催のために訪れたパリでスタッフらと体調を崩しツアーは中止となった。インフルエンザでもかかったと思っていたと言うが、実はかかっていたのは新型コロナだったのだ。自身が罹患したということで、新型コロナの薬やワクチン開発のために、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を通して1.1ミリオンドル(約1億2000万円)の援助を約束している。

経済活動再開の鍵の1つ

抗体検査とは針を指先に刺し、血液数滴を検査キットに垂らして陽性か陰性かを調べるもの。陽性だと以前新型コロナにかかったことがある、つまり免疫があるということになり、今後「同じ型」のウイルスが入ってきても感染しない、というのが現在のアメリカでの一般的な認識だ。

ニューヨーク州でも、経済活動再開のための欠かせない要素の1つとして、州の主導のもと積極的に抗体検査を行う姿勢を見せている。4月半ばには「1日2000検査からスタートし、時間はかかるが1日10万検査を目指す」と、クオモ州知事が意気込みを語った。

まず州では、スーパーに買い物に来ている人に抜き打ち検査を行なった。その結果、州民(在宅勤務者ではなく、買い物などで外出傾向のある人)の抗体検査の陽性率は19.9%ということがわかった。

次に医療従事者、救急隊員、警察官、公共交通機関や刑務所の従業員らエッセンシャルワーカーを対象に検査をした。さらに先週と今週、感染拡大が進む地区の教会に臨時の検査サイト22箇所を立ち上げ、抗体検査を無料で行なっている。今後は、低所得者用の集合住居でも検査を拡大するという。

その結果、エッセンシャルワーカーの陽性率は州民の陽性率(19.9%)より低く、感染拡大が進む地区(主に貧困エリア)では高いことがわかった。(例えば救急隊員の陽性率は約17.1%、ブロンクス区の貧困エリアの陽性率は34%など)

ただし誰もが手軽に検査とはいかない

筆者のもとにも4月中旬以降、さまざまな抗体検査情報が自然と入ってくるようになった。通りを歩けば「抗体検査やってます」という案内ポスターを見かけるし、メールを開けば「抗体検査を予約しましょう」という件名が目に入る。

「抗体検査今すぐできます。予約不要」。通りを歩いているとこのような案内を見かけるようになった。(c) Kasumi Abe
「抗体検査今すぐできます。予約不要」。通りを歩いているとこのような案内を見かけるようになった。(c) Kasumi Abe

筆者は今年に入り風邪のような症状が2度あった。後に無症状や軽症者もたくさんいることが明らかになったため、あれが新型コロナだったかどうかを調べたく、その都度アクションを起こすのだが、なかなか検査まで到達できていない。

前者の案内を見かけた医療機関では加入している医療保険を聞かれ、対象でない場合は約200ドルが検査にかかることがわかった。

「今日にでもすぐ予約ができ24〜48時間以内に結果がわかる」が売りの医療検査センターと患者のマッチングサイトのLabFinder.comでも、簡単に抗体検査の予約ができる。まずオンライン上で過去1週間以内に発熱や咳がないかのアンケートに記入し、抗体検査の希望日時やロケーションを選んで予約をした。翌日スタッフから電話があったが、抗体検査の前に医師によるオンラインのバーチャル検査があらかじめ必要だという。料金を確認するとこちらも筆者が加入している医療保険の対象外で、バーチャルビジットも含めて合計544ドルかかるという。

共に払えない金額ではないが、今行わなければいけない必要性もないため二の足を踏んでしまう。

次に州が22箇所の教会で行なっている無料の抗体検査はどうだろうかと、提携しているNorthwell Healthに電話をしてみた。係員とは話せたが担当部署に転送され、そこから先はずっと保留中となった。30分ほど待ってみたがこればかりに時間を取られるわけにはいかず、諦めた。

ただしわかったことは、加入している医療保険が良いものであれば、今すぐにでも抗体検査ができるということだ。また、ウイルス検査(日本でいうPCR検査)にしても先月上旬まではホットラインがまったく繋がらず「緊急性のある人」が辛抱強く待ってようやく繋がる状態が続いたが、今ではすぐに繋がるようになった。よって来月、再来月には誰もが簡単に抗体検査まで到達できるようになるかもしれない!?

今後は印籠のように各所で必要となる?

前述の通り、抗体検査で陽性であれば同じ型のウイルスが侵入してきても感染しないとされているが、判断の是非や信憑性については諸説ある。正確性については懐疑的な見方をする専門家も少なくないのだ。ちなみに前述のLabFinder.comによると、検査結果の正確性は「97%」。このような現状だが、抗体検査が1つの健康診断基準として捉えられ始めたのは確かだ。

19日付けのニューヨークポスト紙によると、縁を取り持つマッチメーカーのコメントとして「出会いを探しているシングルは、交際相手に抗体があるかが気になるポイントの1つ」ということだ。さらに出会い系サイトの最近の傾向として、プロフィールに「私は抗体検査で陽性です」と書く人がいるという。

「I have antibodies(抗体持ってます)Tシャツ着て歩かないとね!」がニューヨーカーの合言葉となりつつある昨今。アメリカでは1ヵ月半前まで「私は病気持ちではない」というのをマスクをしていないことで何となくアピールしていたふしがあったと今になって思うが、今後は抗体検査の陽性結果が印籠(免疫パスポート)のような存在になるのだろうか。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事