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汚い・臭いNY地下鉄がコロナ感染増のホームレスの住処に 24時間運行やめ初の深夜運休

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
4月14日、ニューヨーク市内の地下鉄のホームにて。(写真:ロイター/アフロ)

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)により、人口840万人のニューヨーク市ではさまざまな問題が浮上している。ホームレスの人々への感染拡大も頭が痛い問題の1つだ。

この街のホームレス人口は子どもも含み7万以上と言われており、コロナ問題が浮上する前から大きな社会問題だった。市内にある450箇所のホームレスシェルターでは、約5万8000人が寝食を共にしている。しかしシェルターとの折り合いが悪い人は路上、駅や地下鉄車両、公共スペースなどで夜間を過ごしており、その数は約4000人とも言われている。

ホームレスシェルターでのソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)はほぼ不可能なため、市では症状のあるホームレスを市内のホテルで宿泊療養させている。今後も最大6000人ほどがホテルに宿泊するのではないかと予想される。複数の部屋の一泊料金は200ドル(2万円)ほどで、その宿泊費は市が負担している。

そんなニューヨークのホームレス問題だが、コロナ禍となり地下鉄の汚染がさらに深刻化しているのだ。

市内に住む人々は普段からホームレスを見慣れているから、電車内や駅構内での共存についてはある程度の耐性がある。しかしそれでも筆者は最後に地下鉄に乗った1ヵ月前、本当にぎょっとした。

そのころはちょうど市内の重症患者数も死者もうなぎのぼりの時期で、本音を言えばあまり地下鉄のような密閉空間には入りたくなかった。そんな中で乗った車両には、相変わらず結構な数のホームレスがいた。乗客が普段より少ないから彼らの存在感はいつにも増してあった。しかもほとんどがマスクをつけていない状態。

最後に地下鉄に乗車した、3月30日の様子(以下同)。(c) Kasumi Abe
最後に地下鉄に乗車した、3月30日の様子(以下同)。(c) Kasumi Abe
昼間なのに真夜中のように乗客がまばら。(c) Kasumi Abe
昼間なのに真夜中のように乗客がまばら。(c) Kasumi Abe
人のいない42丁目駅。このような光景は真夜中にしか見たことがなかった。(c) Kasumi Abe
人のいない42丁目駅。このような光景は真夜中にしか見たことがなかった。(c) Kasumi Abe

その後、車両や駅を住処とするホームレスの数はどんどん増えていき、問題になっていた。

クオモ州知事は最近の定例記者会見で、このように述べた。「エッセンシャルワーカーのために運行している地下鉄で、彼らが朝、通勤のために利用する車両が汚染され、そこで感染するなんていうことはまったく許容できない。現在行われている72時間毎の清掃、消毒は充分ではない」

参照記事

  • 最近の地下鉄の様子(少なくとも84人のMTA従業員がコロナウイルスで亡くなっている)

そこでMTA(ニューヨーク市都市交通局)は改善策として、毎日午前1時から5時まで地下鉄の運行を休止すること、また900人体制で車両とホームの消毒・清掃を24時間毎にすることを発表した。無休で運行していた地下鉄が深夜運休するのは、歴史的にも初の試みだ。

クオモ知事によると、ロックダウン(外出制限)以降の乗車率は92%減少したといい、バーも遊技場も閉まっているため深夜に交通機関を利用する乗客はわずか1万人程度で、主にエッセンシャルワーカーだと言う。州では代替交通手段としてバスの運行を増やし、運休時間中はバスや車サービスなどを無料で用意することも同時に発表された。

深夜の運休、24時間毎の清掃・消毒は、5月6日の午前1時よりスタートする。

24時間稼働の地下鉄は人々の足であり都市の自慢だった

「え!24時間稼働とはすごい」とは、よく日本からの来訪者に言われた言葉だ。

コロナ以前は多い時で1日600万以上の人々が利用し24時間休みなく走り続けたニューヨークの地下鉄。市民にとっての自慢であり、同時に悪名高きものでもあった。

良い点としては、1回の乗車料金がたったの2.75ドル(約300円)で距離に関係なくどこまでも移動できること。また24時間無休で運行しているので、どんなに夜遅くまで飲んでも地下鉄やバスで帰宅できる。またラッシュアワーの混み具合も東京ほどではない。(ちなみに、東京でも24時間運行サービスを検討していた猪瀬直樹氏が都知事だったころ、一度視察に来ている)

ネガティブな点はサービスの悪さだ。1904年に開通した地下鉄駅構内は老朽化が進み暗い、汚い、臭い、ネズミが多い、夏場は蒸し暑いと欠点だらけ。また、車両自体は日本が誇るべき川崎重工製なのだが、使い続けていくにつれゴミが散乱して汚く、匂いが気になることもあった。時刻表はあるものの必ずと言っていいほど時間通りに来たためしがない。もちろん住んでしまえば慣れるのだが、ゴミひとつ落ちていない清潔で定刻通りに運行する日本の地下鉄と比べると、これらは信じがたい現実だった。

世界中の人々の自由と多くの命を奪い、さまざまな常識や価値観を変えている、憎き新型コロナウイルス。しかし良いように考えれば、コロナのおかげでニューヨークは新たな一歩を踏み出しているとも言えるだろう。

これをきっかけに毎日の清掃と除菌を徹底し、地下鉄システムの汚名を返上し、コロナ終息後に観光都市として再び人々の心を掴む街に返り咲いてほしい。

Updated: クオモ知事の5月2日の記者会見をもとに加筆修正をしました。

(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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