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全米で感染者最多のNY 街から酒場も消えた

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
市内最古の人気アイリッシュバー、マックソーリーズでの閉店作業(16日)(写真:ロイター/アフロ)

今日(現地時間3月17日)はセントパトリックス・デー(Saint Patrick's Day)。気温は15℃近くになり、春らしい日差しが差している。絶好のパレード日和だ。

街の人々は全身を三つ葉や緑色でまとい、仲間と酒を飲みながらワイワイと楽しく春の到来を歓迎する。アイルランド発祥ではあるが、現代においては民族や宗教に関係なく、さまざまな人がこの日を共に祝い楽しむ。

マンハッタンでは1762年から毎年続く大パレードが行われ、見知らぬ人とも無礼講で飲み明かす。そんな日だ。

本来であれば。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大を受け、今年はイベントが続々と中止になっている。それどころか、前日の16日午後8時から、州内すべてのバーも閉店を余儀なくされた。レストランでは店内飲食禁止となり、持ち帰りとデリバリーのみ許可されている(アルコールについても瓶や缶の販売は可)。

ジム、クラブ、映画館、カジノなど娯楽とスポーツ施設も一時閉店に追い込まれた。

今のところリテール店については店を閉じないといけないことにはなっていないが、主要デパートのメイシーズや、チェーン店のギャップなども17日、次々と一時閉店を発表した。

通常の今日はこんな感じ。セントパトリックス・デー。(c) Kasumi Abe
通常の今日はこんな感じ。セントパトリックス・デー。(c) Kasumi Abe

困難を共に乗り越え、わたしたちは、より強くなる

オンライン販売に業務転換した店も多い。

16日から自らの判断で一時閉店に踏み切ったのは、ブルックリンの人気ヴィンテージ店、アントワネット・ブルックリン(Antoinette Brooklyn)のオーナー、レキシィ・オリヴェリさん。

彼女によると、同店ではオンラインビジネスが全盛のこの時代においても、実店舗での売り上げがオンライン販売を勝るそうだ。それに加え、顧客や隣人との触れ合いも大切だと、レキシィさんはこれまでずっと店頭販売にこだわってきた。よって営業自粛は、オープン9年目にして初の苦渋の決断だった。

レキシィさんの高齢の母親はニュージャージー州に住んでいる。彼女は数日前、母親に会いにニュージャージーまで車を走らせた。母親の感染のリクスを減らすために、互いに6フィート(約2メートル弱)距離をおいての再会となった。もちろんハグやキスはできない。「実際に会ったようには感じられなかった」とレキシィさん。「私は2年前に父親を亡くし、母は私に残されたすべてです」と彼女。今回の自らの店の営業自粛も「ここにかかわるすべての人の安全のため」。

レキシィさんは自家用車を使い、オンライン販売の配送を自ら開始した。「いつかはわからないけど、いずれ終息し、通常通りに戻るでしょう。それまではひたすら辛抱です。しかしそれを乗り越えた時、私たちはコミュニティとしてかつてないほど強くなるでしょう」。

顧客と従業員の安全を考慮し営業自粛に踏み切ったカフェの店頭にも「stronger」の文字が。「創業10年で初のことだが、一緒に困難を乗り越えより強くなるだろう」。(c) Kasumi Abe
顧客と従業員の安全を考慮し営業自粛に踏み切ったカフェの店頭にも「stronger」の文字が。「創業10年で初のことだが、一緒に困難を乗り越えより強くなるだろう」。(c) Kasumi Abe

ニューヨークタイムズ紙による、現在の症例数がわかるアメリカおよび世界のマップ(アップデート中)

17日現在でニューヨーク州内の感染者は1374人と全米トップ。死者12人。

ニューヨーク州では、家でじっとできないであろう子どもたちのために、有料の公立公園などは無料開放されている。

一方、ニューヨーク市での感染拡大を受けビル・デブラシオ市長は17日、不要不急の外出を禁じる「シェルター・イン・プレイス令」の決断を48時間以内に下す可能性があると、WNBCなどが報じた。シェルター・イン・プレイス(外出禁止)令は、サンフランシスコなどですでに実施されているもので、食料品や薬の調達のための外出などに限り許される。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)の要件を満たしている限り、屋外でのエクササイズやハイキングなども問題ないとされる。

悪いニュースばかりが気になるが、新型コロナウイルスの感染者で回復したのは世界で8万人以上。世界的に見て、感染者が完治したケースが実は多いことにも注目したい。ジョンズ・ホプキンス大学の研究データ

余談だが、冒頭の写真はマンハッタンのイーストビレッジにある、ニューヨーク市最古のアイリッシュバー、McSorley's Old Ale House(マックソーリーズ・オールド・エール・ハウス)。

アイルランドからの移民、John McSorleyが1854年に立ち上げ、今からちょうど100年前の1920年から13年間続いた禁酒法時代にはスピークイージー (もぐり酒場)として、過酷な日々の中で人々に活力を与えてきた。そういう訳で、現代においても要人やセレブなどに根強いファンは多い。

100年後の今、私たちが戦っている敵は法律や制度ではなくウイルスだ。現代版スピークイージーは鳴りを潜め、その代わりに人々は家飲みへ、もしくは減酒、断酒へとシフトしていくのだろうか。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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