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シェア型電動キックボード NYで移動や観光用に導入できるか?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

カーシェアリング、自転車シェアリング、オフィスや作業所、機械のシェアリングなど、住まいや職場はもちろん移動手段まで、さまざまなものの共有化が進む昨今。次はシェア型電動キックボード(英語でeスクーターと呼ばれる)の導入に期待が高まっている。

このシェアリング・プログラムの導入が、ニュージャージー州ホーボーケン市で今年5月20日から11月20日までの6ヵ月にわたり試験的に行われ、調査結果がこのほど発表された。

市民には大変好評を博したようで、終了後もプログラムの延長を求める声が同市の運輸局に寄せられている。

使用機種や利用料金:

  • Lime社Ojo社の電動キックボード
  • 1回1ドル(約110円)。1分ごとに15セントが加算

利用上のルール:

  • 18歳以上(住民か訪問者かは不問)
  • 制限速度は18MPH(時速28.9km)以下
  • 自転車レーンなど決められた道路のみ(歩道は禁止)
  • 歩行者や自転車利用者などに道を譲る
  • 歩道や横断歩道上での駐車は禁止
  • 利用後は決められた場所に戻す

(詳細)

実証実験後の調査を元に、同市が発表した内容:

  • 期間中、全67万3,000回の利用があった
  • 1回の平均利用時間は6分
  • 運転する時間の減少
  • タクシー利用の減少
  • ライドシェア利用の減少

10月23日から11月10日までの調査に参加した2100人の利用者のうち、64%がシェア型電動キックボードのおかげで移動が楽になり、73%が公共交通機関との接続が楽になったと高評価。また74.5%がシェア・プログラムの継続を求めると回答した。

参照記事:

シェア型電動キックボードの合法化が進まないニューヨーク、実現化に向け進み出したニュージャージー

スーツを着たビジネスマンも通勤などに、シェア型電動キックボードを使っている様子

この結果を受け、川を挟んだ隣のニューヨーク市でも、シェア・プログラムの実現化への期待が高まっている。

実は、ニューヨーク州での電動キックボードのシェアリング法案は、今年6月に州議会で可決しており、あとはアンドリュー・クオモ知事が署名するだけだ。

ニューヨーク市内の移動は、近年便利になったとは言え、まだ問題点も多い。一度でも観光で訪れたなら、日常的に渋滞する道路事情を見たり体験したりしているのではないだろうか。また時間帯によってまったく捕まらないイエローキャブ、乗車料金が値上がりの一途で運転手や同乗者とのトラブルも少なくないUberなどのカープール(相乗り)、そして汚い臭いスケジュール通りに来ないと悪名高い地下鉄など、市民が移動手段で満足することはない。

シェア型電動キックボードが市内で合法化されれば、移動手段の救世主として、人々の不満を解消するものになるだろうし、観光客にも便利なものになるだろう。(注:「マンハッタンからのシェア」はこの法案で認められていないため、市内ではブルックリンなど4区での利用に限られるのだが)

ただしニュージャージー州での実証実験では、いくつか問題点も挙げられている。例えば、シェア型電動キックボードが歩道や広場に乗り捨てられた、酔って蛇行運転をしたなど、一部の心無い利用者による悪しき実例も報告されている。実際、飲酒後に電動キックボードを運転し、自動車に衝突するなどの事故で、少なくとも2名の逮捕者が出ている。

また、あまり知られていないことだが、ニューヨーク市内では自動車による巻き込みなどの自転車事故が日常茶飯事で起きており、近年は増加傾向にある。地元メディアの報道では、午後の時間帯だけで起きる自転車事故の平均数は毎日3件にも上り、このままいけば今年だけで死者数は30人(昨年の3倍以上)に達するのではないかとの予想もある。

今後の導入の可否は、利用者の安全性がどのように守られるかが争点になるだろう。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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