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駅と路上の不審物に大混乱 性的異常者が置いた炊飯器でテロ騒動?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
フルトンストリート駅が封鎖され、立ち往生する市民。(写真:ロイター/アフロ)

8月16日午前、ニューヨークの地下鉄や路上で相次いで「不審物」が3つ発見され、NYPD(ニューヨーク市警察)が緊急出動。道路や駅は封鎖され、ニューヨーク市民の足に影響を及ぼした。

ニューヨーカーは金曜日ともなると“ハッピーフライデー!” “TGIF”という掛け声と共に、長い1週間を戦い抜いたことに感謝しながら平日の最終日のひと時を楽しみ、週末モードにシフトしていく。しかしこんな平和な空気も、この日の朝は不審物騒動で一転した。

さらにその騒動の種となったのは、ただの「空の炊飯器」だったと聞いて、人々は安堵すると共に複雑な気持ちになったことだろう。

まず初めに空の炊飯器が2つ発見されたのは、マンハッタンの金融街やグラウンドゼロ(2001年同時多発テロが起こった場所)にほど近い、ダウンタウンのフルトンストリート駅だ。

この駅はリノベーション後、14年に再オープンしたばかりで広くて新しく、地下鉄の8路線が交差するハブ駅として、多くの人々が利用している。私も14年から向かいのオフィスで働いていたため、馴染みがある。駅構内にはシェイクシャックなど人気店も入店し、1日中ビジネスマンや観光客で往来が激しい。

そんな主要駅で不審物が発見されたのは、金曜日の午前7時というラッシュアワーの時間帯だった。

不審な男がショッピングカートに2つの炊飯器を乗せ、フルトンストリート駅の上階と下階にそれぞれ炊飯器を置いた様子が、監視カメラに捉えられた。

駅構内で見つかった炊飯器。この写真では分かりにくいが、家庭用というより業務用のようにかなり大きい。(出典:NBC New York)
駅構内で見つかった炊飯器。この写真では分かりにくいが、家庭用というより業務用のようにかなり大きい。(出典:NBC New York)

駅の不審物騒動のわずか1時間後には、同じくマンハッタンのチェルシー地区の路上で、3つ目の不審物が発見された。こちらもほかの2つと同じモデルの「空の炊飯器」だったが、一時はNYPDにより道路が封鎖される騒ぎとなった。

不審物を置いたとされる男は警察により同日午後1時40分ごろ発見され、職務質問を受けた。NYPDの発表によると、その男はウェストバージニア出身のラリー・グリフィン2世(Larry Griffin II、26歳)。過去に自身と鶏との獣姦(じゅうかん)動画を未成年に送信したとして逮捕されるなど、少なくとも2度の逮捕歴があるいわくつきの人物であると地元紙が報じた。

男は精神疾患を抱えており「1つの場所で物を拾い上げ、別の場所にそれらを置く風変わりな癖がある」という、いとこの証言も出ている。

路上に仕掛けられた爆発物と言えば、16年9月、マンハッタン・チェルシー地区の路上2ヵ所で圧力鍋と、ニュージャージー州のゴミ箱がそれぞれ爆発した事件が記憶に新しい。鍋の中は爆発物を起爆させる仕組みになっていて、29人の負傷者が出た(1つは爆発前に警察により撤去されたため不発)。13年4月に起こったボストンマラソン爆破テロ事件では、5人もの命が奪われた。

今回は、置かれた炊飯器(当初は圧力鍋と見られていた)は何の仕掛けもない空の状態だったため、NYPDテロ対策担当副長官、ジョン・ミラー氏は「現段階で容疑者とは呼べないが、動機は何だったのか」と、首をかしげている(男は翌日になって逮捕、起訴されている)。不要になった炊飯器を捨てただけなのか、注目を集めたいがために謎のデバイスを仕掛けたのか、今後捜査が進められる。

当地ではテロを警戒して、「If you see something, say something」(不審物を見たら、触らずに届け出ましょう)という、誰もが知るスローガンがある。01年9月12日(同時多発テロの翌日)に、当地の広告マンAllen Kay氏によって生まれ、現在は国土安全保障省によりアメリカ全体で認知されているものだ。ニューヨーカーは電車の車内広告などでこの合言葉を見るたびに頭に刷り込まれるから、市民は公共の場に置き去りにされたバックパックなどの「不審物」には、日頃から神経を尖らせている。

今回の不審物が置かれた場所が、同時多発テロの場所から目と鼻の先だったというのも不安を増幅させた。人々を無秩序に不安にさせ混乱に巻き込んでおきながら、「ただのイタズラでした」というような幼稚な言い訳などは聞きたくない。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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