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米飲食店でも「信じられない」悪ふざけが。バイトテロはなぜ起こるのか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米ウェンディーズ。写真は従業員が最低賃金改善を求めた2013年のストライキの様子(写真:ロイター/アフロ)

飲食店のアルバイト店員が悪ふざけをし、その様子をソーシャルメディアに投稿して企業イメージを傷つける、いわゆる「バイトテロ」が後を絶たない。今年に入ってからも、すき家、くら寿司、セブン-イレブン、ファミリーマートなど数々の企業が被害に遭っている。

しかしこれは日本だけの問題ではなく、この手の過剰ないたずらが起こるのはアメリカも一緒だ。

最近では今年2月、テネシー州マリービル市で、31歳のフードデリバリーをしていた男が、オンライン注文のあった商品をメキシコ料理店から顧客に配達する途中、なんと自分の睾丸をサルサソースの入った容器の中に入れ、それをビデオ撮影してソーシャルメディアに投稿。食品への異物混入の容疑で逮捕、起訴されている。(参照記事:NBCニュース

なぜこのようなことをするのかと、開いた口が塞がらない。

また今週も、フロリダ州ミストン市にあるハンバーガーチェーン大手ウェンディーズで「バイトテロ 」が起こった。上半身裸の従業員の男が同僚らにおもしろおかしくそそのかされて、店内キッチンの流し台を風呂桶として使用。同僚らがその様子をビデオ撮影して5月21日にFacebookに投稿し、問題になっている。(動画が掲載されたニュース

動画は93秒に及ぶ内容で、5月24日の時点で70万6,000回再生されている。

米ウェンディーズを運営するCarlisle Corporation社の担当者は「許容できない行為」と不快感を示しながら、「適切な判断力の備わっていない元従業員によるPrank(害を与えるつもりのない悪ふざけ、いたずら)であり、この男はすでに退職している」と説明。「これを機に現場担当者と品質管理手順を見直し、徹底した安全管理に努めていく」と強調した。

ビデオ投稿の翌日、州の衛生管理局による行政指導が行われ、州が定める衛生検査に合格したことも発表で明かされた。

一方、地元の人々は「一度クローズして消毒するべきでは。ずっと営業しているとは気持ち悪い」「しっかり衛生管理しない限り、ここでは今後食事しないだろう」という辛辣な反応だ。

バイトテロはなぜ起こるのか?

バイトテロが起こるたびに、再発防止策についての意見が飛び交う。携帯電話などのデジタル端末の持ち込みを禁止すべきといった意見、連帯保証人を誓約書と一緒に事前に提出させるべきといった意見、ITリテラシーを向上させるために、事前にやってはいけないことを良識に欠けた若年に教える必要性があるという意見などが見受けられる。

しかし私は、若者がなぜそのような悪ふざけをするに至ったか、根本的な原因を探るべきではないかと思う。育った家庭環境がよろしくないのかもしれない。または、単に適切な判断力が欠如する「若気の至り」で深く考えずにそのような行為を働いてしまったのかもしれないし、「スリル感を味わいたかった」「人気ものになりたかった」などの感情に支配され、過ちに至ってしまったのかもしれない。

しかしどんなに若年でスリル感や冒険心の誘惑に負けたとしても、自分が行おうとする行為の善悪はある程度判断がつくのが人間なのではないか。幼児だとしても、何が良いことで良くないことかは大人が思っている以上にわかっているのだから。ITリテラシーが欠如していると理論で叩き込んだところで、根本的な問題の解決には繋がらないだろう。

そんなITリテラシーの欠如とかいうかっこいい言葉で片付けるよりも、問題を起こす人に足りないのは、職場や人生における「やりがい」や「モチベーション」ではないだろうか? 

自分は何のために貴重な時間を費やし労働に従事するのか(誰もが本当は避けて通りたい)労働の目的や、労働から得た対価で何をしたいのかなどの目標があいまいなのではないか。または単に生活や家族を養うための労働だとしても、低賃金では時間と労力だけを搾取されていると感じるだけだろう。

企業側は労働者に対して、機会や経験や賃金面で「やりがい」を与えられているだろうか。賃金は安すぎないか。人を、財産としての「人材」ではなく労働奴隷のように扱っていないだろうか。

参考までに、ニューヨークでは昨年、最低時給が15ドル(1,639円)に底上げされた。加えてレストラン(ファストフードを除く)のサーバーは、客からチップとして総額の15〜20%を得られる。がんばればがんばるほど賃金が上がるシステムだ。

日本から観光でニューヨークに来た方とレストランに行ったときのこと。その方は、「こちらのウェイターは客を会話やジョークで楽しませてくれるのが印象的でした」と言った。同時に以前、東京のとあるもんじゃ焼きの有名店に食事に行ったとき、私たちのテーブル担当の女性が、楽しくなさそうに無言で私たちのもんじゃを焼いてくれたことを思い出したのだった。もちろん現実的な話をすれば、ニューヨークは全体的に物価高だし、賃金の上昇に伴い商品自体の料金も上昇するわけだから、消費者にとって良いことだけではないのだが、賃金アップは労働者にとって高いモチベーションに繋がっているのは確かだろう。

もう一点、バイトテロ関連で交わされる意見で違和感があるのは、過ちを犯した若者の記録や個人情報がずっとネット上に残り「一生棒に振る」「その子の生涯が終わってしまう可能性が」「後戻りできない」という声だ。何とも大袈裟過ぎる「大人たち」の意見を聞くたびに(決していたずらをした若者を擁護するつもりもないのだが)、「殺人を犯したわけではないのに、そんなバカな」とも思ってしまう。

日本は一般的に過ちや失敗に厳しい国だ。若気の至りで過ちを犯してしまった若者がいたとしたら、「なぜそれが起きてしまったのか?」という根本的要因を探りながら、社会全体でその若者の更生を応援するぐらいの許容力と温かさを持って迎え入れてやってほしいと思うのは、甘過ぎる考えなのだろうか?

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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