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ユナイテッド航空の乗客引きずり降ろし。アメリカで生きているアジア人として思うこと

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
謝罪に追い込まれた、ユナイテッド航空 CEO、オスカー・ムニョス氏。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは連日、ユナイテッド航空3411便の乗客引きずり降ろしについて報道が過熱している。口に怪我を負い、流血の状態で無残にも(まるで動物のように)引きずり降ろされたのは、デービッド・ダオさん(69歳)。彼が医者だというのは、事実が明るみになった後のサプライズだったが、もう一つサプライズがあった。

映像を見てきっと誰もが思ったはず。「被害者はアジア人だったのか」

最近になって、引きずり降ろされる直前の映像も公開されている。

この映像からもわかるように、警察の強引な引きずり降ろしは、デービッドさんが頑なに拒否したからにほかならない。デービッドさんは、中国語訛りの英語で、「絶対に降りない」と断固拒否している。しかしその後、警察は強制的にデービッドさんを飛行機から降ろす手段をとった。その引きずり降ろす様は、アメリカの世論では「人間に対しての扱いではない」と言われている。

そして、アメリカに住むアジア人の一人として思ったことは、白人(外国訛りの英語を話さず、特に法律に精通した人)だったら、警察の対応が少し違ったのかもしれない、ということだった。

アメリカに住むアジア人として

日本からニューヨークを訪れた人にたまに聞かれることがある。「アメリカに住んで差別されたことはありませんか?」

ニューヨークに15年住んで、明らかに受けた差別は今のところない。しかし、高級レストランなどで白人の白髪の紳士が私(アメリカ人ではない女性)とは少し違う待遇を受けているのを目の当たりにすると、自分がアメリカで生まれ育った白人(お金持ちで教養があり、年配の男性)だったら、もっと対応が違ったのかなと感じることはある。

このような気持ちになるのは、そもそも「お金がからんだ場所」であることが多い。つい最近も、日本からやって来た女性ゲストが、私に愚痴をこぼしたことがあった。「ホテルのレストランで毎朝朝食を食べているんですが、3日目に気づきました。アジア人である私は、白人のテーブルとは違うアジア人だけの固まりのテーブルに誘導されていたんです」と。その女性はマンハッタンのミッドタウンにある、一泊500ドルの老舗高級ホテルに滞在していた。

高級レストランでは確かに、外国語をペチャクチャ話す中国人、日本人、韓国人などアジア人グループ客は、少し離れたところにテーブルを用意されることがある。その理由も何となくわかる。しかしこの女性ゲストは「私は一人客で、一言も発していない」とのこと。それを聞いて「なぜ?」と耳を疑った。その女性は英語がまったく話せず、携帯の翻訳アプリを使っていたので、もしかしてレストラン側の配慮なのかもしれないが、その女性が自ら、何となくの違和感や居心地の悪さを感じとったのは確かだ。

私自身、差別ではないが、居心地の悪い思いをした経験は過去にある。その一つは、友人(白人のアメリカ人)とダイナーで食事をしていたときのこと。私たちのテーブルの隣に、年配の白人2人組が座った。女性は私を見るなり、信じられない話をしだした。「私、最近、中国人に仕事奪われたのよね」。この会話はしっかり聞こえたが、私は直感的にその会話を無視した(当時の私は「ていうか、私中国人じゃないし!」の思いの方が強かった)。10年以上も前、しかも中西部での話である。

幸いニューヨークでは、そこまでのものは一度もない。白人、黒人、ラテン系、その他... の友人知人に差別的に扱われた、からかわれたなどの経験もない。人種のるつぼ、ニューヨークの寛大さに感謝している。(時に人種ネタはコメディーなどでも取り上げられ、友人知人との会話になることもあるが、違和感や居心地の悪さを感じたことはない)

しかし一般的に、身体が貧弱で、アメリカの移民史の中でも浅いアジア人(特に外国生まれ)は、白人黒人に比べて社会的にまだ弱い立場なのだろうということは薄々思うことである(その証拠に、黒人の大統領は生まれたが、アジア系の大統領は生まれていない)。そして、冒頭のユナイテッド引きずり降ろしに話は戻るが、彼が中国語訛りの英語を話さない、そして法律に詳しい白人だったら、どうなっていただろうと思いを巡らす。

世の中に「もしも」はないのは十分承知の上だが、外国訛りの英語を話すアジア人である私は、「あんな人間以下の扱いを受けていなかったのではないか」と思わずにはいられない。では、あれが黒人だったら? 

黒人は力が強いので、白人警官は相当身構える。黒人の搭乗者がデービッドさんのように拒否したら?これまで無実の黒人被害者が死に至らしめられた数々の過去のケースのように、もっとひどいことになっていたのではないか、とも思ってしまう。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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