24時間ゲーム漬けの不登校息子が「明日こそ学校に行く」と親を喜ばす深層心理
“もう好きなようにすればええわ”腹を決めた母
ノートには「子どもの話をちゃんと聞いてあげる。質問攻めにしないで。そうすれば子どもから話してくれる。それを待つこと」とも書かれていた。これについては「こちらが提案してることが多すぎたみたいです。多分あれしようこれしようみたいな。ゲームの時間も本人に決めさせようと、相談して一日何時間というふうに決めたつもりではいたんですけど、結局は親がエスコートしていました。だから(ルールを決めても)破られたんですね」 ――約束を破ったら、破った本人にまた決めさせて―― 自分で決めさせること。じっくり待つこと。この2つを池添さんから口酸っぱく言われたイクコさんは、ようやく腹を決めその通りにした。すると、昼夜逆転どころか、24時間ゲーム漬けになった。母が“もう好きなようにすればええわ”とこころのなかであきらめかけたある日、リョウトくんは言った。 「そうか、朝起きるには夜ゲームやめたらええんや」 完全に不登校になってから4ヵ月ほど経ったころのことだ。イクコさんは嬉しくなり、そのことを池添さんに報告した。ところが「ふーん」と二度三度うなずくだけ。拍子抜けした。 ――子どもが親が喜ぶようなことを言うときはな、90%はリップサービスや。親に気ィ遣って喜ばせようとして言ってる部分があるよ。いちいち一喜一憂せんで、へえそうか、くらいで聞いときや―― 「ええっ、リップサービスなん!? って驚きました。この言葉が私にとっては結構衝撃で(笑)。でも、よく考えたら腑に落ちました。子どもって親に気を遣ってるんだなって」(イクコさん)。
親を喜ばす息子の言葉の深層心理
これについて、池添さんは「不登校になった多くの子どもたちが似たようなことを言います」と話す。もうそろそろ6年生だから学校行こうかな、明日は行こうかな、などと言って親を一瞬喜ばせる。そんな子どもの深層心理を池添さんはこう解説する。 「気持ちの半分は、親を喜ばせたい。でも、それだけじゃなくて、あとの半分は自分もちょっとそんな気になるんです。あ、学校行けるかもしれへんっていう気になる。夜はそんな気分なんだけど、朝になったら行けへん。そして、こういうことを繰り返すのは絶対に良くありません」 その理由はこうだ。 ――不登校の子どもが『明日こそ行く』と親に言ってしまうのは、学校に行けていない自分をお父さんやお母さんが認めてくれていないと感じてるから。もし子どもにそう言われたら、派手に喜んだりせずに、そうかそうかと言っておけばいいのです―― それで行けなかったとしても「行くと言ったのに嘘をつくな」とか「結局行けなかったじゃないか」と子どもを責めてはいけない。学校に行かなくてもいいよ、休んでいいよと受け止めている親の気持ちが伝わっていないか、自分たちがこころからそう思えていないと考えたほうがいいようだ。 池添さんは親たちに「前の晩に子どもが言ったことは、次の日になったら忘れなさい」と諭す。そうでなければ、親のほうが「行くって言ったやん」「昨日言ったことと違うやん」と言ってしまうからだ。 「朝起きるには夜ゲームやめたらええんや」 言ってはくれたが、やはりやめなかった。 後編【中学3年間不登校の息子…「信じてあきらめる」と決めた親の変化が子どもに与える影響】では、学校に行かせることを「あきらめた」イクコさんと息子リョウトくんの変化について。イクコさんを支えた池添さんの言葉とは。
島沢 優子(ジャーナリスト)