Figma“中興の祖”が果たした役割に見る「ベテランの力」
結局、「やりたくないことを自分に強いるのはムリ」
それから、少しふざけているように聞こえるかもしれませんが、「みんなで楽しもう」と、遊び心をもつことの大切さも伝えています。Figma Config 2024では、“クソロボットの女王”の異名を取るロボット発明家のシモーネ・ギールツさんが基調講演をしてくれましたが、私は、彼女の考えかたが大好きなんです。彼女がしてきた発明には、いい意味でバカバカしさが詰まっていますからね(編集部註:ビンタをする目覚まし時計や、口紅を塗るロボットなど、必ずしも実用性が高いとはいえないロボットを開発している)。 人は結局、「やりたくないことを自分に強いるのはムリ」なのです。大切なのは、何が自分を突き動かし、何が自分に充実感を与え、何が自分を幸せにするのかを理解し、それにエネルギーを注ぐことです。彼女の話では、一見バカバカしいことをしていても、最終的には重要なビジネスにつながりましたし、遊び心も失われていませんよね? 「楽しんでいるときこそ、人は最高の仕事をする」ものだと、私は強く信じています。Figmaではいくつかの「カンパニー・バリュー(行動指針)」を作りました。最初は3つで、その3つ目が「楽しもう」というものだったのですが、その「楽しもう」の定義について社員同士で話し合うことに意味があったのです。つまり、コードを少し書いて、そのあとは卓球をして遊ぶではダメなわけです。 要は、「手がけている仕事を楽しむにはどうしたらいいか?」ということなのです。どんな仕事でも、楽しいときもあれば、そうでないときも必ずあります。そんなとき、どうすればもう一度楽しめるようになるか? だから私たちは、その方法を見つけようとしているわけです。社員がもっと自由に何かを探求できるようにしたり、いい仕事をしたときは一緒に喜んだり。そういうことをみんなで楽しめる企業文化を作ろうとしたのです。その文化は今日まで続いていると思います。 ──入社時、クワモトさんに期待されていた役割は明確だったわけですね。そのときに、イメージしていたFigmaの未来像とはどういったもので、それにどの程度近づけましたか。そして、今後の未来像とはどのようなものでしょうか? クワモト:期待していたイメージの段階はとっくに過ぎましたね(笑)。入社したときは「これくらい行けたら悪くないな」と思っていた段階をはるかに超えたのでいい気分ですよ。世の中全体で享受できるような素晴らしい体験を生み出すユーザーの皆さまに、製品・サービスを提供できる──。そのような種類のインパクトを提供できる会社は、そうそうあるわけではありません。 そうしたこともあり、私たちの仕事を喜んでくださるような仕事に携われることは、私たちが働く元気の源になります。私自身、製品に誇りをもっていますよ。これまでに作られてきたソフトウェアの中でも最高のものの一つだと自負しています。それは、Figmaで働く1000人以上の社員たちのおかげでもあります。今後も私が望むことは、ユーザーの皆さまが本当に好きになってくれるような製品を作り続ける会社であり続けることですね。そして、Figmaで働く人たちが最高の仕事をしていると感じられること、そして、それを苦痛に感じることなく、心から楽しめることです。
井関庸介