Figma“中興の祖”が果たした役割に見る「ベテランの力」
製品の出荷を意識したチームづくりに取り組む
──それだとありきたりですし、すぐに忘れてしまうでしょうね。クワモトさんが勤めていたジェネラル・マジックも、「ストーリー(物語)」というか、大胆なビジョンで知られた会社でした。今思えば、真に革新的な会社であったとも思います。ただ残念ながら、製品をヒットさせるには至らなかった。アドビからFigmaへ来たとき、クワモトさんも社内の空気に迷いを感じたとのことです。ジェネラル・マジック時代が、デジャヴのように頭をよぎったりしませんでしたか? クワモト:ええ、まさにそのとおりです。難しいのは、「あまり多くのことをしようとするな」という教訓に近い点です。「あまり多くのことをしようとするな」の逆は、「やりすぎるな」でもなければ、「できる限り少ししかするな」でもありません。それだと、何もできないからです。答えは、「できる限りの力でバットを振って、それでいて、ボールを打つにはどうすればいいか?」ということになります。 それがすごく難しい。「それでは、その“賭け”をいつするのか? どこで大きな賭けをすればいいのか?」という問いにつながるからです。つまり、大きな賭けをする必要がないときは、賢く力をコントロールする必要があります。逆に、大きな賭けをするときは、最高の人材を投入し、頭脳をフル回転させて、それを成功させなくてはいけません。しかし、それが難しいんですよね。というのも、いつ、どこで大きな賭けに出るべきかについてはみんな意見が違いますから。 ──クワモトさんがFigmaに加わったときは、創業から3年経っていたのに製品が出荷できていない、という難しい段階だったと思います。当時の状況と、チームに対してもった印象とはどのようなものでしたか? クワモト:私は幸運だったと思います。私が加わった頃の規模感だと、ふつうは経営陣を手伝う人を雇うことがないからです。創業者がすべてのマネジメントを自分たちでしますからね。でも、Figmaの創業者たちは助けが必要だとわかっていたんだと思います。そして、社員が苛立ちや葛藤を抱えていることを感じていたからこそ、助けが必要だと理解していた。会社の方向性に確信をもてず、製品を出荷できるか不安に思っていた。モラール(士気)の点で問題を抱えていたわけです。 そこで私が加わり、少し時間はかかりましたが、製品の出荷を意識したチームづくりに取り組みました。規律の習慣づけですね。「すべての課題を洗い出して、それに優先順位をつけよう。今までのチャートは白紙に戻して、自分たちの現状をチャートに書き出そうじゃないか。それを壁に貼ってみんなで共有できるように“見える化”しよう」という具合です。納期も決めました。期日はかなり攻めましたね。私は2015年8月に入社し、同年の11月にはプライベートベータ(少数ユーザー向けのベータ版)をリリースしたと思います。なので、3カ月ですね。「3カ月後にはこれを顧客に見せるわけだから、必要以上のことはしなくていい。プライベートベータを公開するまでに必要な修正だけをするんだ」と話しました。