<脱炭素で思考停止する日本>注目すべき中国の石炭火力低炭素化への戦略とは?
火力の低・脱炭素化でも中国は競争力を持つか?
とは言え、アンモニア混焼のコストは現状でかなり割高で、自ら出力調整が可能な火力であるから安定供給には資するといえど、経済性の面から現実的な選択肢と言えないのではないか、と考える向きも多いだろう。実際、炭素価格を考慮しなければ、通常の石炭火力と比較すると発電コストは2倍以上である。 中国の行動プランには、こうした中国政府の計画に通常示される導入量に関する具体的な数値目標が見当たらない。アンモニア混焼による低・脱炭素化は現状のコストでは大々的に進めることは想定できないが、さりとて習近平国家主席が国際的に公約した30年のCO2ピークアウト目標を実現する道筋を示さないわけにもいかないという事情が暗示されているのかもしれない。
カギとなるコストダウンの可能性だが、例えばチリで生産した再エネ由来のグリーンアンモニアをわが国の石炭火力で混焼した場合のケーススタディと中国のグリーンアンモニアの生産コストを比較すると、チリのグリーンアンモニア(470ドル/トン)に比べ、中国国内では319ドル/トンと32%安価に生産できるようだ。また中国は太陽光パネルと電解水素発生装置を組み合わせたパッケージ輸出にも注力しているようで(輸出先としては中東など)、電解水素発生装置についても大量生産による規模の経済性を活用したコスト低減という、これまで中国が実現してきた勝ちパターンの再現を狙っているように見える。 とは言え、24年6月時点で中国国内のグリーンアンモニアの(計画中含む)生産能力は1188万トンに過ぎず、22年の中国のアンモニア生産量6101万トンの2割程度に過ぎない(ちなみに中国のアンモニア生産量の世界シェアは33.5%に及ぶ)。そもそもCO2削減という点ではグリーンアンモニアを必ずしも石炭火力との混焼に用いる必要はなく、現状でアンモニアの7割が投じられている肥料生産に用いられるかもしれない。他方で、石炭火力の混焼という新たな用途への政策的支援の表明でグリーンアンモニア生産のプロジェクト着工率が急上昇している事実もある。 また原稿執筆時点で中国国内におけるアンモニア混焼と蓄電池のコスト比較に関する情報は見当たらないが、わが国に関する研究では蓄電池と水素混焼はエネルギー貯蔵と出力の形態の違いから必ずしも競合するものではなく、補完的な部分があるとの指摘もある。