<脱炭素で思考停止する日本>注目すべき中国の石炭火力低炭素化への戦略とは?
再エネと火力の両方を生かす中国の妙策
火力の低炭素化、とりわけアンモニアの混焼に関してはわが国が先行して進めており、既にこの4月1日から6月26日のおよそ3カ月間、JERA碧南火力4号機(定格出力100万キロワット〈kW〉)において20%混焼率で商業運転プラントでの実証試験を成功裏に完了している。 一方、アンモニア混焼の中国の取り組みに関する記事を見ると、既に複数の実証実験が行われてきたようだ。昨年、23年4月には安徽省で30万kWの発電所において10~35%混焼率での実証試験、同年12月には国家能源集団の広東省台山発電所63万kWにおいて混焼率は不明ながら実証試験に成功したとのことである。 しかしいずれも数日間の短期間の実証であり、また窒素酸化物(NOx)の排出抑制にどの程度成功したのかといった情報は開示されていない。恐らくまだ初歩的な実証段階にあり、混焼の技術レベルはわが国の方が数段進んだ状態にあると言って差し支えなさそうだ。 ただ、今回の行動プランは火力の低炭素化におけるわが国の競争優位をあっという間にひっくり返す可能性を秘めている。 というのも、アンモニア混焼の導入に当たっての最大の障壁は経済性、すなわちアンモニアの価格をいかに引き下げるかという点にあるためである。中国政府は行動プランの中で、アンモニア混焼に関しては、産炭地の山元発電、あるいは石炭火力と再エネの両方を導入している発電所、人里離れたメガソーラー・ウィンドファームと隣接する石炭火力発電所などに優先的に導入していく方針を表明している。世界最大の再エネ導入量となっている中国にとって、時に電力需要を上回る再エネの発電電力を吸収する方策として、グリーンアンモニア製造を位置づけている面がある。 そうした方針の背中を押すのは、再エネの導入に際し余剰発電量を自ら蓄電する手段の配備を義務付けている制度である。多くの場合、蓄電池が選ばれ、地域によって規制は異なるが、再エネ発電設備容量に対して最低で10%以上、地域によっては20%におよぶ充電容量の蓄電池を最低2時間分(4時間分という地域も)、配備する必要がある。蓄電池のコストは中国でも割高であり、再エネ事業者が系統安定費用を負担せずただ乗りを赦してきた日本と比べると、中国はより合理的な電力市場設計をしている。 こうした制度が存在するからこそ、今回の行動プランを受けて、再エネ事業者の中から余剰発電量の蓄電手段として認められる電解水素発生装置+グリーンアンモニア製造装置の導入を検討する事業者が出てくるのだ。 行動プランは石炭火力と再エネ、それぞれの運転特性を踏まえて、それぞれの長所を伸ばし、短所をカバーする妙策であると言えよう。再エネとしては系統安定費用として負担している蓄電コストの回収可能性が高まり、石炭火力にとってはアンモニア混焼のカギであるアンモニア燃料費用の軽減と一定の供給量確保が可能となる。