アンドロイド観音にAIジーザス、テクノロジーが宗教に変革 「あなたはAIを信じますか?」
宗教におけるAIの役割
ソーシャルメディアだけではない。宗教は驚異的な成長を見せるAIの影響も受けている。そのひとつである大規模言語モデルは、膨大な量のデータによって訓練を受け、言語を分析・処理し、あたかも人間が話すような答えを生成することができる。 これを積極的に活用する宗教指導者たちがいる。米ユタ州にあるスリ・スリ・ラダー・クリシュナ寺院の僧侶であるカル・ダス・アディカリー氏は、物語とラップ音楽、曲作りに興味を持ち、米グーグルの生成AI「ジェミニ」を使ってサンスクリット語の詩にラップの曲を付けている。ただし、「AIの言葉はそのまま使えるほど洗練されてはいないので、人間が若干手を加えなければならない」と話す。 米ビオラ大学タルボット神学部長のエド・ステッツァー氏は、宗教改革の教義に関する説教を準備していたとき、米オープンAIの生成AI「ChatGPT」に「2~3世紀の教父たちによる教えから、教義に関連して何か引用できる箇所はないか」と尋ねてみた。AIはいくつかの例を挙げてくれたが、いつも正解を出してくるとは限らない。「糸口にはなります。AIの得意分野を生かせばいいのです」
信者を導くロボット司祭
ロボット司祭という形で、礼拝にAIを取り入れる宗教も増えている。芝浦工業大学の准教授であるトロヴァト・ガブリエレ氏が開発した小さなロボット「SanTO(サント)」は、新古典主義の聖人像のような見た目で、高齢者だけでなく、外出や移動が困難な人でも利用しやすいように設計されている。信者は電気のろうそくを使ってSanTOの手に触れて問いかけると、聖書や祈りの文句、聖人の生涯などに関する膨大なデータベースのなかから答えを出してくれる。 中国の北京にある龍泉寺には、「Xian’er(賢二)」という名のロボットがいる。黄色い法衣をまとい、困惑気味の表情を浮かべて経を読み、信心の基本原則を説く。また、インドのトリチュールにあるイリンジャダッピリー・スリー・クリシュナ寺では、動物福祉の観点から、鎖につながれた本物のゾウに代わって実物大のロボットゾウを儀式に使用するようになった。 17世紀に建てられた京都の高台寺に導入されたのは、「マインダー」という名のアンドロイド観音だ。身長は180センチメートルを超え、陶器のような肌、動く頭、手、腕、むき出しのアルミニウムの骨格を持ち、慈悲の菩薩である観音のまなざしで法話を説く。 英ケンブリッジ大学研究員として感情的知能を持つ機械をテーマとするダニエル・ホワイト氏は「ブッダが実際に説いたことに近い形で、我々の疑問に答えられるAIや人工生命体を作ることができるだろうか?」と問いかける。ただ、ホワイト氏が驚いたことに、マインダーに接触した多くの信者は、マインダーの言葉に心を開いているようだった。 さらに、ロボットの葬儀を執り行う寺まである。1990年代後半にソニーから発売されたイヌ型ロボットの「AIBO(アイボ)」は、日本で大人気を博した。ところが悲しいかな、機械はいつか壊れる運命にある。 千葉県いすみ市にある光福寺は、動かなくなってしまったAIBOを供養して魂を抜き、浄土へ送り出してくれる。住職の大井文彦氏は、葬儀が参列者にとって仏教哲学の深い側面を知る良い機会になるとも考えている。