【最果タヒさん】インターネット発詩人の「SNSとの付き合い方」「顔出ししない理由」
一方で、自分の作品が誰かの生活のタイムラインに入ることがすごく美しいなと思って。本を撮影した写真とかたまに見かけるのですが、その人の部屋や本棚が背景に見えて、一人の人の生活の一部に本がなっているのがわかるのは嬉しいです。海外で詩集が翻訳されることもありますが、その本が同じように部屋の中で撮影されているのとかみると、言葉は分からなくても同じ世界の誰かの生活のなかに言葉が溶け込んでいるってわかって、そのことにとてもときめきました。日常に私の詩が入って、その人の日常が流れていく。それがすごく幸せです。自分が知らなくても、そういう世界があちこちにあることを幸せに感じながら私は私のペースでやっていく。これがインターネット上での幸せなやり方かなと思っています」
ふと詩に出会った人が“いいな”と思える気持ちを、とにかく大事に
詩や小説、エッセイを書くことに加え、最近では、バレエ団への原詩案の提供、アーティストへの歌詞提供など、ますます活躍の場が広がっています。取り組みの内容は違えど、考えているのは対1人の人、1人の気持ちを大事にしています。 「詩を読み慣れていない人は、学校の教科書で読んだきり、という人もいます。“詩を書いています”と伝えると驚かれることもありますし、詩って本当に人によってどんな存在かバラバラなんだなぁと思います。言葉は、自分と読む人の間にあるもので、自分から出てくるものというより、読む人の存在があって、開かれていくものなのかなという感じがします。でも誰かの気持ちを動かそう、こう書くと喜ばれるだろう、とは決して考えないようにしていて、それは、人と人はそんなに簡単に完全にわかることなんてできないし、誰かの気持ちをコントロールできると思って書いた作品は多分つまらないだろうなと思うから。 いつもどんなふうに届くんだろうな、わからないな、と思いながら、それでも言葉を書いていくこと、言葉を書くことで知らない人の心に知らない形で届いていくことにどきどきして、それがすごく美しいことだと思えて、私は幸せなんです。ふと詩に出会った人が“いいな”と思える気持ちを、とにかく大事にしたいです。一人の人のいいなという気持ちに誠実に応えていきたい。それを一つずつ行なって、そうして積み重ねていく日々だといいなって思います。だから素敵なものを作りたいし、読む人の夢に応えられるような良い仕事をしていきたいと思います。なによりそうやってやることが私はとても楽しいです」