糖尿病専門医が警告…「こたつむり生活」が招く高血糖と脳・心筋梗塞【正月は体に悪い】
【正月は体に悪い】#1 元旦は「年神様」と呼ばれる新年の神様が、1年の幸福をもたらすために各家庭に降臨するという。その年神様を迎え入れて、少しでも多くの幸せを授けてもらうためにさまざまの行事を行う。その過ごし方は人それぞれだが、物事にけじめをつけて気持ちを切り替え、新年に挑戦するための英気を養う。正月は素晴らしい行事だが、厳しい労働に明け暮れた昔とは異なり、肉体的負担が軽減した現代では、正月の過ごし方も変えるべきではないのか? 糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛基浩院長に話を聞いた。 高齢者は「餅の窒息死亡事故」に注意! 男性は女性の2.6倍多い 「そもそも12月から2月の冬は、1年で最も血糖値が高くなる季節です。寒さで外出を控えて体を動かさない生活が続くからです。その最たるものがお正月です。単に体を動かさないだけでなく、糖質や塩分たっぷりのお節料理やお餅とお酒やソフトドリンクでお腹を満たす。血糖値が上がらないわけがありません」 実際、正月といえば、テレビを見たり、家族と会話したり、合間にミカン、お節料理、お酒を楽しんだりして長時間こたつで座りっぱなしになる「こたつむり生活」が定番だ。なかには豪勢な国内外旅行を楽しむ人もいるだろうが、失われた30年ですっかり貧乏になった日本人は室内で三が日を過ごす人が多いだろう。しかし、体を動かさず、糖質や塩分たっぷりの飲食に明け暮れる正月の過ごし方は体にいいわけではない。 高血糖値が厄介なのはその影響がすぐに自覚できないことだ。そのため見過ごされがちだが、冬場にも多くなる脳梗塞や心筋梗塞にも関係するから恐ろしい。 「糖尿病の血管合併症は、細小血管障害である神経障害、網膜症、腎障害が有名ですが、冠動脈疾患、脳血管障害、抹消動脈疾患の大血管障害にも注意が必要です」 過去の研究によると、糖尿病患者では心筋梗塞、脳梗塞といった大血管障害の発症リスクが2~4倍高いことが報告されている。また、糖尿病予備軍でも冠動脈疾患の発症率が上昇することがわかっている。 「怖いのは、大血管障害は、直近1~2カ月の平均的血糖値を反映するHbA1cが必ずしも高くなくても発症リスクがあることです。世界的な大規模試験(UKPDS35)において、2型糖尿病の進行と細小血管障害並びに大血管障害の発症との関連が検討されました。結果は、細小血管障害はHbA1cが8%を超えた時点から上昇するのに対して、大血管障害はその値が5~7%の低いレベルから発症率が上昇することが示されています」 欧米では糖尿病患者の40~50%の直接死因が心筋梗塞であることがわかっていて、日本でも心疾患による死亡率は年々増加している。逆に2型糖尿病の人はHbA1cが1%低下すると、心筋梗塞の発症リスクが14%低下することが報告されている。 「こたつむり生活で気になるのは、長時間座りっぱなしになることです。その影響はとくに代謝や循環器系に現れます。座った状態が続くと下半身の筋肉活動が著しく低下し、下肢から上肢に血液が流れにくいなど血流が滞ります。これにより血糖値を下げるためのインスリンの効率が悪化し、糖尿病のリスクが増大する可能性があります。当然、この状態が続くと血栓ができやすくなり、エコノミー症候群などを起こすことにもつながりかねません」 では、どのような正月を過ごすべきなのか? 「ひとつのやり方として、昔ながらの正月行事に習うのも手かもしれません」 例えば、元日は朝方に窓を開けて空気を入れ替え、“若水”で家族が口をすすいだ後に食事を取る。家族で今年の抱負などを語り合った後に、地元の神社等に初詣に出かける。あるいは元旦から七草の日までに七福神を巡るのも良いかもしれない。 「百人一首やかるた遊びだけでなく、トランプや運動系ゲームを家族で楽しむのも良いでしょう。要はお正月を『寝正月』にしないことです。休む=何もしない、ではなく、普段の仕事はしなくても別のことで体を動かすように心がけるのが良いのではないでしょうか」 研究によれば、30分ごとに1~2分間立ち上がり、軽いストレッチやその場での歩行を行うだけでも血流改善の効果があるとの報告もある。 「疲労」とは過度の肉体的、精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体活動の減退状態を指す。それは思考能力、刺激に対する反応、注意力などの低下や眼のかすみ、頭痛、肩こり、腰痛などを生じる。こうした症状のある人にとっては、何もしない休みも必要だろう。しかし、正月にこたつむり生活を送るのは必ずしもそういう人ばかりではないはずだ。普段は運動不足という人は、正月休みこそ体を動かしてはどうだろう。