全国の酪農家が初の1万戸割れ…生産コスト「高騰」に価格追い付かず、多くが「離農」検討
酪農が危機に直面している。一般社団法人の中央酪農会議(東京)によると、全国の酪農家戸数は10月時点で前年同月比5・7%減の9960戸となり、2005年の調査開始以来初めて1万戸を割り込んだ。生産コストの上昇で離農を検討する酪農家も多く、牛乳や乳製品の安定供給を脅かしかねない。
「飼料や燃油の価格高騰に加え、機械の導入や更新などにもお金がかかる」。北海道美瑛町の酪農家、浦薫さんは2日、同会議が都内で開いた記者会見で苦しい状況を明かした。
隈部洋副会長は「円安やウクライナ情勢を背景に、資材価格の高騰が酪農経営にも大きな打撃を与えている」と強調。特に22年以降に減少率が拡大し、牛乳や乳製品の度重なる値上げも「コスト高騰に追い付いていない」と訴えた。
同会議によると、生乳1キロ・グラムあたりの生産費は22年に110・6円で、5年前に比べ25%増えた。24年1~9月平均の飼料価格は20年比で約4割上昇しているのに対し、牛乳の価格上昇は2割近くにとどまる。酪農家236人に実施した経営実態調査では、58・9%が「赤字」と回答。「離農を考える」と答えたのは計47・9%に上った。
北海道大大学院農学研究院の小林国之准教授によると、これまでは設備投資による効率化や頭数増加で1頭あたりの乳量を増やし、規模拡大でなんとか収益を確保していた。それでも20年以降はこうした手法による収益力が低下しており、「構造転換が必要だが時間がかかる」と指摘する。
江藤農相は6日の記者会見で「減少傾向が止まらない。大きな節目を迎えてしまった」と述べた。全国農業協同組合中央会(JA全中)の馬場利彦専務理事も「酪農の生産基盤が弱体化している。このままでは牛乳・乳製品の安定供給はもとより、関連産業にも影響を及ぼしかねない」と危機感を示した。
牛乳・乳製品の付加価値を高める取り組み始まる
個別の酪農家の経営が厳しい中で、企業が牛乳・乳製品の付加価値を高める取り組みも始まっている。