冤罪の被害額は70億円、248日間の独房暮らし 「それでも検察は謝罪も検証もしないのか!」東証1部上場企業創業者の怒り
判決確定後、山岸さんは「公益を代表する国の機関がこれほどの過ちを犯したんだから、事件の調査や検証がなされるはずだ」と期待していた。しかしそんな動きが起こる気配はみじんもなかった。 「今回の冤罪で私の受けた被害は、単純計算で70億円超です。われわれ民間企業がそんな大きな失敗をしでかしたら、普通は第三者委員会を開いて検証するでしょ? ところが検察はやらない。これだけの冤罪事件をなかったことにするのは許せない。厚生労働次官だった村木厚子さんが逮捕された冤罪事件の後に僕の事件が起こってるわけで、このまま放っておいたら『またやりよるで』と思ったんです」 そこで山岸さんは2022年3月、国に対し被害の一部である7億7千万円の賠償を求めて損害賠償請求訴訟を起こした他、元部下らを威圧的に取り調べた男性検事2人を証人威迫容疑などで刑事告発した。検察庁はこの2人を不起訴としたが、山岸さんはさらに付審判請求を行い、2人のうち1人については特別公務員暴行陵虐罪で起訴するよう裁判所に求めた。大阪地裁は請求を棄却し起訴を認めなかったものの、「机をたたき、怒鳴り、時には威迫しながら、長時間一方的に責め立て続けた検察官の言動は、陵虐行為に当たる」と認定した。
「村木さんの事件後、検察上層部は『あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない』とする『検察の理念』を作りましたね。でも、現場の人は正反対のことばっかりしている。われわれ民間企業なら、たとえ経営者が素晴らしいお題目ばっかり唱えても、末端の従業員に守らせなかったら、経営者失格ですよ」と舌鋒するどく批判する。 ▽「巨大化した個人商店」を反省 山岸さんは今、京都で規模は小さいが同じ不動産デベロッパーの会社を立ち上げ、再起を図っている。プレサンスコーポレーションで手腕を振るっていた時分は、第三者委員会の報告書でも指摘されたように「巨大化した個人商店」だった。トップがワンマンで即断即決して会社を急成長させたが、いつのまにか誰にも相談できない体制になっていたと反省した。今では部下に「こら」と叱りつけるのもやめたという。 これらの得がたい経験は2023年4月、著書『負けへんで!東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋)で詳細にまとめて世に問うた。人権団体の講演会や刑事司法のシンポジウムなどでも、自身の体験を精力的に話すようにしている。
「時間の許す限り協力はしていきたいと思っています。ただ、手応えはないですね。一般の国民が人ごとだと思ってますからね。世論は動かないし、国会議員も動かない。それでも、やらなあかんのじゃないか。(検察が)変わるとまでは思わないけど、少しでもくぎを刺すことができれば。二度とこういうことが起きないように」