「100万円けちって落ちたら後悔するでしょ」 元自民党事務局長の証言 選挙の「裏金」
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件をきっかけに、政党の裏金とされる政策活動費の存在がクローズアップされ、現在の国会でも議論の焦点の一つとなっている。自民党の元事務局長は中国新聞の取材に、激戦区に党幹部が応援に入る際に「表に出さないカネ」が使われていると証言。その原資は、選挙の年に増額する政策活動費だと語った。(4回続きの2回目) 【画像】政策活動費の資金の流れ
疑惑の当事者の口はどうしても重くなる。一線を退いた元幹部なら色々聞かせてもらえるかもしれない。2019年まで自民党の事務局長を務めた久米晃(70)に申し込むと、取材に応じてもらえた。通常国会開会前の1月23日にインタビューした。 選挙分析に定評があり、名参謀として歴代の党幹部から信頼されてきた久米。国民の政治不信を高めた党派閥の政治資金パーティーの裏金事件の感想を聞くと「政治資金が『悪』と結びつけられてしまった」と残念がった。 根底にあるのは「政治はカネがかかる」という思い。衆院議員は地方になればなるほど、選挙区は広くなり、複数の事務所を構えなければならない。抱える秘書も多くなる。人件費や事務所の賃料、光熱費がかさむ。 「英国製の背広を着て、(高級車の)センチュリーに乗っている人もいるけど、それは限られた人。実際にはカネに困っている議員の方が多い。政治家が金儲けしていると言われると困る」。久米は国会議員の多くは政治資金の確保に苦労していると訴える。 特に選挙前は出費がかさむ。党公認の候補者には、党から公認料500万円と活動費1千万円が候補者側に振り込まれるが、事務員や車上運動員などの人件費に加え、候補者をPRするためのポスターやチラシの印刷・宅配費も膨れ上がる。野党候補との激戦区になると、費用はさらに増していく。
「100万円をけちって選挙で落ちたら後悔するでしょ」
一方、自民党本部は選挙前から情勢調査を繰り返し、各選挙区の状況を把握する。激戦区には、幹事長をはじめとする党幹部が応援に入り、遊説する。久米によると、その際には党幹部が候補者に陣中見舞いとして現金を渡す。「幹部が演説して『はい、さよなら』というわけにいかない。人間社会の常識でしょ」 陣中見舞いの相場は1人100万円。党幹部は選挙期間中、1日3カ所を回ることも珍しくない。「1日に300万円。衆院選なら12日間やって3600万円。(100万円を受け取った候補者は)飲み食いに使う余裕なんてない。必要なことに使う」と説く。 選挙の際に陣中見舞いを渡すのは法律で認められている。政治家同士でやりとりする場合なら、それぞれの政治団体の政治資金収支報告書や候補者の選挙運動費用収支報告書に書けばいいが、久米が語るのは「表に出さないカネ」。政党が政治家個人に渡し、使途を報告する義務がない「政策活動費」だ。 「だいたい車中でぱっと相手の懐に(現金入りの封筒を)突っ込みますよ。それが表に出ないカネ」。こう明かす久米は続けた。「当選するためにできることはする。だって戦だもん。勝たないと意味がない。100万円をけちって落ちたら後悔するでしょ」 疑問なのは、なぜ「表のカネ」として処理しないのかということだ。陣中見舞いを渡したい政治家の政治団体や政党支部の口座に振り込み、領収書をもらって収支報告書に載せれば政治資金規正法に則った寄付になる。 表に出さない理由について久米は「出す方も、もらった方も名前を出してもらいたくないという人がいる」と説明した。その答えに記者が首をひねっていると、久米は「選挙運動はボランティアという体裁を取っている。後援会のメンバーから『先生は50万円もらっているの』と言われたら嫌だし」と言葉を継いだ。やはり記者の腹には落ちなかった。 なぜ水面下で陣中見舞いをやりとりするのか。ある元自民党国会議員が取材に応じた。選挙の時に応援に来た党幹部から100万円をもらったが、収支報告書には載せなかったという。表に出さなかった理由については「他の選挙区の候補者から『なんであそこだけに100万円を出すのか』となってしまう」と語った。