冤罪の被害額は70億円、248日間の独房暮らし 「それでも検察は謝罪も検証もしないのか!」東証1部上場企業創業者の怒り
「(極限状態で)取るに足りない一言で腹が立つようになってしまってね。奥さんが面会に来てくれて、『久しぶりにご飯を食べに行ってお酒飲んだ』と聞いただけで腹が立つんですよ。『おまえ、コロナになったら面会に来てくれへんようになるやないか!』って」 当時の日々は、これまでの人生からぶつっと切り離された存在と思えるほど、本当に自分に起きたこととは思えないトラウマ的な経験だった。 2020年8月、6度目の請求でようやく保釈を勝ち取った。無罪主張は維持していた。ただ住居玄関への監視カメラ設置や預金口座の支払い停止措置など、厳しい条件を飲まされた。かくして248日間もの長期勾留を耐え切った。今は、理由をこう分析する。 「大学卒業後、大手不動産会社に新入社員で入った時の方がきつかったですね。拘置所はご飯食べられますもん。当時は数字取らなかったらご飯食べさせてもらえんかったですから」 「あとは(戦えた理由の一つとしてあるのは)経済力ですね。普通のサラリーマンの方だったら、家族も心配だし、(検事の取り調べで)折れちゃいますでしょう」。山岸さんは刑事弁護のプロや元検事、元裁判官の弁護士を集め、一流の弁護団を結成していた。
▽検察控訴せず完全無罪 「検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。あなたたちみたいに金を賭けてるんじゃねえんだ。てんびんの重さが違うんだ、こっちは」。案件を山岸さんに持ちかけ逮捕された元部下に、取り調べの男性検事が言い放った言葉だ。だがその言葉と裏腹に、検察の捜査はストーリーありきのずさん極まりないものだった、と指摘する。 「検察はそもそも、証拠をまともに見ていないんですよ。例えば、検察から証拠開示された電子メールなどを約20人の弁護団員で全て分析するのに1年ほどかかってるんですよ。一方、検察は関係各所へのガサ入れ(家宅捜索)で証拠押収してから2カ月足らずで僕を逮捕していますから、証拠を吟味していないんです。弁護団の分析からは、僕の認識と違う客観証拠が一点たりともなかった。にもかかわらず検察は(僕が横領に関わったとのストーリーで)関係者の供述をねじ曲げて起訴したんです」 2021年10月、懲役3年の求刑に対し、大阪地裁は無罪を言い渡した。検察は控訴せず、文字通りの完全無罪だった。日本ではほぼ100%負ける特捜事件の公判で勝利したのだ。判決は、検事の取り調べが元部下に虚偽の供述をするよう追い込んだ可能性にも触れていた。