「壊すものを造って、批判を浴びとる。万博は、もっと夢があるもんやと思ってた」工事業者が語った「士気の上がらない現場」 リングやパビリオン建設の下請け経営者や作業員の本音
「完成後も、みんなに使われる橋や建物と違って、壊すものを造っとる。しかもそれが批判を浴びとる。やる気は上がらへんよね。税金の無駄遣いと思いながら、それで飯を食っていて、複雑な心境ですわ」 【写真】「足が太いからクビ」 1970年の大阪万博の光と影
来年4月13日の開幕まで1年を切った2025年大阪・関西万博。象徴とされる木造の巨大環状屋根「リング」を建設する下請け企業の男性経営者が、取材に語った。 「張りぼてのまま開幕するんやろか」。大型トラックが次々と行き来し、重機が音を立てる夢洲(ゆめしま)の万博会場建設地や事務所で、建設会社の担当者や作業員らに話を聞いて回った。国策の現場で明らかになったのは、工事関係者でさえ魅力を感じていない現実だった。(共同通信=小島鷹之、武田惇志、岡田学時) ▽つぶすもん 関西地方にあるリング工事の下請け会社を経営する40代男性の今宮さん(仮名)は開口一番、ため息交じりに語った。 「結局、つぶすもんやないですか」 取引のある大手企業からの依頼で、下請けとして工事に参加している。 日本国際博覧会協会(万博協会)は、約350億円を投じてリングを建設するが、閉幕後に現地から撤去する可能性がある。「世界一高い日傘」と揶揄(やゆ)する声や、無駄遣いとの批判が上がっている。
▽日当1万円→1万8千円 新型コロナウイルスの流行・収束と、ウクライナ戦争を機に、資材価格は上昇。国内の働き手不足から、賃金も高騰している。 万博の会場整備費は当初試算の1250億円から2倍近くに膨れあがる可能性もある。 今宮さんが人集めの実情を明かす。 「日雇い労働者が集う大阪・西成で、万博工事以外で作業員を集めようとすれば、数年前までは日当1万円やった。今は1万8千円。こんな状況やから、わざわざ予算の限られた万博に職人さんが来うへんし、そもそも職人さん自体が減って、おらん状況や」 ▽プレハブ 今宮さんによると、リングは当初、昨年4月に着工予定だった。だが、元請けの大手ゼネコンが改めて建設費用を見積もると、建設資材と人件費の高騰で、想定予算を大幅に超えることが判明。着工は結局、昨年6月にずれ込んだという。 リングの工事は順調に進んでおり、夏には完成しそうだ。それに伴い、新たな懸念が生まれている。リングの内側に建設するパビリオンの工事の進み具合が低調で、リングが先に完成してしまうと、中に建設用の重機や資材を入れられない事態に陥る可能性がある。