命の躍動を鮮烈に表現、使う色を徐々に減らしたどり着いた「墨絵」…越前和紙と出会い作品に磨き
墨絵アーティスト 西元祐貴さん 36
白い紙に描かれた竜やアスリートは今にも動き出しそうだ。大小の筆だけでなく手も使う。「墨絵で大事なのは、どこを描かないでおくか」。墨の黒と紙の白を最大限生かした作品を心がける。 【写真】東京パラリンピックの公式プログラムに採用された墨絵。バドミントン選手がえび反りで振りかぶる姿を捉えた
福井市安原町の住宅街に立つ工房。2015年から福井を活動の拠点とし、月に10日ほど滞在し、制作に集中する。縁のなかった福井と自身を結びつけたのは越前和紙だった。越前和紙に託した作品を国内外で次々と発表。21年には世界のアスリートらが注目する東京パラリンピックの公式プログラムに作品が採用された。
◇ 鹿児島県出身。3歳の頃から絵に夢中になり、高校卒業後はデザインの専門学校に進学。そこで壁に当たった。「自分の武器がほしい」。油絵や鉛筆画、水彩画……。多様なジャンルをこなすが、「どこかしっくりこなかった」。
高校まで続けたサッカーの影響で、「アスリートの躍動感や臨場感」を表現したいと思った。「色がないほうが見る人に想像してもらえる」。使う色を徐々に減らし、たどり着いたのが墨絵だった。新聞配達のアルバイトをしながら、ひたすら墨絵を描き続けた。
20歳代半ばの12年、米フロリダで開かれたコンテストに、バスケットボール選手を墨で描いた絵を出品。63か国から寄せられた計約5300点の中で、「ワールドベスト作品」に選ばれ、初めて世界で存在感をアピールした。 「サッカーのワールドカップ(W杯)や五輪で作品を見せたい」。夢は膨らんでいった。
◇ 15年、作品制作で知り合った関係者から紹介を受け、初めて福井を訪問。越前和紙の紙 漉(す)き職人で伝統工芸士の長田和也さん(64)と対面した。
長田さんが漉いた和紙に触った。原料の 楮(こうぞ)やミツマタが混ざり、繊維が絡まって雲状に見える独特の「雲肌」。心が動いた。「すぐに筆をとって、越前和紙に表現したくなった」