命の躍動を鮮烈に表現、使う色を徐々に減らしたどり着いた「墨絵」…越前和紙と出会い作品に磨き
しかし、長田さんの和紙は、これまで使った紙と比べ、質や厚みが異なった。表面にざらつきが残り、厚くて生成り色。均一でムラがなく薄い紙に慣れたせいか、筆を走らせると描き心地や墨のにじみの違いに戸惑った。
「墨の黒の強さがより出る、強い白色に」。翌年、生成り色の和紙がより白に近づくように長田さんに依頼した。
意見交換を重ねた末、長田さんは楮の種類を白色が出やすい上質なものに変えた。「筆先の一本一本が紙にのり、すっと筆が運べるように」と水と原料の配分も変更。約1年半かけて専用の和紙が完成した。「墨をたたきつけるような黒の強さが西元さんの代名詞。失敗を恐れず描いてほしい」と話す。
◇ 越前和紙を得て、作品に磨きがかかった。「自分のために漉いてくれている」。筆を持つ手に責任を感じるようになった。
16年に日本で開かれたサッカーW杯関連のイベントに参加し、即興で墨絵を描くパフォーマンスを披露。同年に中国・上海市政府から招待を受け、関係者の前で作品を披露したこともあった。
そして21年、東京パラリンピックの公式プログラムに作品が掲載された。「パラスポーツをもっと知ってほしい」。新競技のバドミントン、テコンドーのアスリートをモデルにした墨絵。車いすに乗ってスマッシュを放とうとする選手と、左足で回し蹴りをする選手。いつもより太く、粗めの筆を使って力強さを強調した。墨の黒を白い和紙が引き立て、濃淡で躍動感を伝える。20歳代で抱いた夢を実現させ、世界のアスリートに墨絵でエールを送った。
「言葉に表せない人間の感動や僕の中の刺激」を作品を通じて表現したいと願っている。「成し遂げたと思うことは何もない。墨絵のエネルギーや福井のことを国内外の人に伝えたい」。意欲は尽きない。
読売新聞