地球はいつ冷めた?生物はじまりのカギ、鉱物ジルコンで迫る42億年前の地球
先日、小惑星探査機「はやぶさ2」がおよそ3年半の月日をかけて、無事小惑星「リュウグウ」に到着したことが話題になりました。 地球は46億年前に誕生し、生命は約40億年前に生まれたとされています。しかし、当時の地球はどのような姿だったのかはまだ解明されていないことが多く、「はやぶさ2」は地球に近い小惑星である「リュウグウ」から、生命誕生の手がかりとなる試料を採取することが目的とされています。 そんな中、シカゴ大学の研究チームが岩石を分析し、42億年前の地球環境について最新研究を発表しました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。 ----------
冥王代の地球のおぼろげな姿
昔々その昔。この地球には「冥王代(めいおうだい)」と呼ばれる時代があった。 地球の表面はマグマという非常に高温のドロドロに溶けた鉄の塊に覆われていたそうな。たくさんの水(海)や大地(陸地)も見当たらず、大気のほとんどが地球内部から噴出された大量の二酸化炭素によって占められていたそうな。(注:酸素が現れたのは先カンブリア時代でもかなり後のことだった。) 地質年代上、この「冥王代(Hadean)」は約46億年前の地球誕生時からそのすぐ後の数億年間(約40億年前まで)にあたる、非常に長い地質年代をさす。その間地球は今の姿からはとても想像できないほど異様だったと考えられている。生物などとても「存在できない環境にあった」と地質学の教科書には一般に記されている。 さて6億年近くにわたる冥王代の間、地球は具体的にいつ頃、非常に高温な時期を経て空冷化が起こったのだろうか? この空冷化に伴い、地球という惑星は初めてまとまった量の「液体としての水」を宿すことなり、これが海の誕生へとつながった。ドロドロに溶けた高温のマグマ(溶岩)が冷えることによって、むき出しになった岩石も出現したことだろう。これが陸地の誕生につながったと推測されている。 こうした一連の冥王代の地球環境の大激変は、地質学の教科書に当たり前のように記されている。しかしこの大規模な空冷化が起きた具体的な時期、そして詳細なプロセスに関しては、まだまだたくさんの謎が残されている。冥王代の地球環境に関しては、実は「分かっていないことの方が多い」といってもいい。 この最初期の地球環境の研究におけるジレンマは、地質学・古生物学における一つのシンプルな命題による。 「古い事象になるほどその情報量が少なくなる」。研究上、こうした傾向がはっきりと存在するためだ。 家庭の冷蔵庫に残されたスイカの切れ端も、ピザの残り物も、わずか一晩のうちに(どういうわけか)跡形もなくなるのが世の運命(さだめ)。何億年も前に刻まれた太古の環境の名残(岩石)や生物の痕跡(死骸や化石)が、例えば風雨にさらされ、永遠にこの世から姿を消しても何ら不思議はないはずだ。何億年という時間が経てば、失われるデータや証拠の割合が増えるのは火を見るよりも明らかだ。 事実、「冥王代の岩石」の存在は非常に希少とされる。知られている限り一番古い地球の岩石は、冥王代でもかなり後期、その終末間近のものになる。 例えば以前に取り上げた「最古の岩石記録」の記事を、是非もう一度ご覧になっていただきたい。Reiming等(2016)はカナダ北部(北極海に面したノースウエスト準州)で見つかった火成岩を「約40.2億年前」のものと推定している。 -Reiming, J.R., et al. (2016) “No evidence for Hadean continental crust within Earth’s oldest evolved rock unit”. Nature Geoscience 9: 777-780. -「世界最古記録 40億2千万年前の岩石が語りかける太古の地球の姿」: しかしこれより古い時代の冥王代の岩石の存在は、とりあえずこの地球上の記録に限れば、今のところ知られていない。