コンテンツ強化を図るソニーは、空間コンピューティング時代の“上流”を狙い撃つ
米国のラスベガスで開催中の「CES 2025」でソニーが開いたプレスカンファレンスは、ソニーのもつ優れたコンテンツと知的財産(IP)、そしてグループ内外へと広がる人的ネットワークの豊富さを見せつけるものだった。 その“主役”は、口火を切ったソニーグループ社長COO兼CFOの十時裕樹だけではない。アメリカンフットボールのNFLのコミッショナーをはじめとする社外のパートナーのほか、グループ内からはアニメの企画制作を手がけるアニプレックスやアニメ配信大手のCrunchyroll(クランチロール)、映画大手のソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ゲーム制作会社などの幹部が勢揃いし、計12人が入れ替わり立ち替わりプレゼンテーションしたのである。 発表全体の方向性としては必ずしも目新しくはない。ソニーが2024年5月23日に発表した経営方針に沿ったものだ。グループで保有するIPを生かした新作のアニメや映画、ゲームなどを投入すると同時に、それらの制作に欠かせない技術やソリューション、プラットフォームを提供していくという戦略である。 つまり、ソニーはグループ内外の総力を結集して優れたコンテンツやIPを生み出すのみならず、そのためのクリエイションを技術によって支える企業になる──というわけだ。かつてソニーの“顔”だったテレビやオーディオなどの家電製品は、すっかり影が薄くなっている。
空間コンテンツの制作を支援
こうしたなか特筆すべきは、空間コンテンツの制作を支援するソフトウェアとハードウェアを統合したソリューション「XYN(ジン)」をソニーが発表したことだろう。これは現実空間にあるオブジェクトや人の動き、背景を正確に捉え、バーチャル空間などの3DCG制作環境に再現するためのツールやデバイス群だ。 例えば、人間の体に取り付ける12個のモーションセンサーと組み合わて動きを高精度にキャプチャーできる「XYN Motion Studio」は、取り込んだ人の動きをアプリ上で簡単に編集したり操作したりできる。これにより、これまで高コストだったモーションキャプチャーを多くのクリエイターが使いやすくした。 また、3Dのデジタルツインを構築できる「XYN空間キャプチャーソリューション」は、一眼カメラで現実の物体や空間の写真をスマートフォンアプリの指示に沿って1枚ずつ撮影していくだけで、被写体の3Dデータを出力できる。置物などのオブジェの場合は、周囲をぐるっと360度から撮影していくだけでいい。建物の中などの空間全体をキャプチャーする場合は大量の写真を撮影する必要があるが、それでもアプリの指示に従っていれば撮り残しは発生しない。 こうしたソリューションを用いて作成した立体的なコンテンツを確認するためのハードウェアも、ソニーは発表した。XRヘッドマウントディスプレイ「XYN Headset」だ。高精細な有機ELディスプレイを採用するなど、できることはアップルの「Apple Vision Pro」に近い。だが、XYN Headsetは空間コンテンツを個人が楽しむ用途というよりも、クリエイターのための製品という色が濃い。おそらく将来的には、普及モデルが一般ユーザー向けにも投入されることだろう。 プレスカンファレンスではソニー・ホンダモビリティが開発した電気自動車(EV)の量産モデル「AFEELA 1」も披露された。これは日本発の新しいEVとして注目されているが、ソニーの戦略においてはコンテンツを楽しむためのプラットフォームの一部といえる。自動運転が一般的になると、ドライバーを含む乗員にとってクルマは「コンテンツを消費する場」になるからだ。