俵万智さんと飯間浩明さんが語り合う、辞書と短歌と変わる日本語。
飯間 今回、対談の機会をいただいて、「俵さんとお話をするからには、私も素人なりに短歌を詠んでみよう」と考えたんです。歌人の伊藤左千夫も、「牛飼が歌よむ時に世の中の新しき歌大いにおこる」と言っています。辞書編纂者ならどんな歌が詠めるか、書いてみました。 俵 (印字された紙を受け取って)すごい。言葉の多様性について、同じ内容を万葉調、現代風など文体違いで。ひとりでこれはなかなかできないですよ。さすがですね。
飯間浩明さんによる短歌
多様性尊重せよと人はいへどことばの差異は認めずあるらし ひとはみなさまざまにあれといふ人のなどことのはをためむとすらむ ひとはみな違っていいという人がなぜことばだけ型にはめるの ●俵さんが寄せた講評。 「言葉の多様性という題材を、ひとりの詠み人が違う文体を駆使して書かれていて面白いですね。言葉の選び方なども含め、器用にすべてクリアしていて魅力的です」
飯間 恐れ入ります。これはいつも思うことをそのまま書いたんです。金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」という文句は愛されていますが、その割に、ネット上には「言葉警察」がはびこっています。 言葉こそ人それぞれでかまわないはずなのに、なぜ型にはめようとするのか。私自身もSNSで言葉遣いを指摘されることがありますが、「べつにいいやん」と思います(笑)。さすがに俵さんに指摘してくる人はいないでしょうが……。 俵 いますよ。私も『プロフェッショナル』に出たことがあるんです。最後に「プロフェッショナルとは」と聞かれるでしょう? 歌詠みだからここは歌で答えようと思って、〈むっちゃ夢中〉で始まる歌にしたんですけれども、その〈むっちゃ〉に怒ってきた男性がいて。むっちゃというのはもともとはむちゃくちゃが語源であるから、いいほうの強調に使うのはけしからんみたいな。 飯間 その人の「マイルール」としてはそうなのでしょうね。
俵万智さんの最新歌集より抜粋
我が部屋に銀杏は降らず小さめのゴミ箱さがす東急ハンズ むっちゃ夢中とことん得意どこまでも努力できればプロフェッショナル 『アボカドの種』(角川書店)より ●俵さんの短歌に、飯間さんが寄せた感想。 「好きな歌は、と聞かれても絞りきれないのですが、本歌取りというか、俵さんご自身が以前の歌を踏まえて作ったと思われる歌を見つけると、懐かしくなりますね」