マスク氏がトランプ次期政権での影響力を強める中、2024年のテスラの世界販売は初めてのマイナスに
2025年にはテスラが世界のEV販売でトップの座を中国のBYDに譲る可能性
イーロン・マスク氏は、間もなく始まるトランプ次期政権への影響力を強めているが、マスク氏が最高経営責任者(CEO)を務める米電気自動車(EV)大手テスラ社は、年明け後から逆風に見舞われている。1月1日には、ネバダ州ラスベガスのトランプ・ホテル・ラスベガスの外で、テスラのサイバートラックが爆発して炎上した事件が発生した。 さらに、テスラが2日に公表したところでは、2024年のテスラ社の世界販売台数は、前年比1%減の約179万台だった。年間販売がマイナスとなるのは、四半期販売台数の公表を始めて以降初めてである。テスラにとって、中国は世界販売の約5割、米国は約3割を占めている。この2つの市場での販売不振が顕著であったとみられる。中国市場では景気減速の影響や現地のEVメーカーとの価格競争が販売不振につながったとみられる。また米国市場ではEV販売全体の伸びが鈍化した上に、シェアも減少した。地域別販売台数は公表されていないが、米国と中国では、統計開始以降、年間で初めて前年を下回ったとみられる。 他方、中国EV最大手のBYD(比亜迪)の2024年のEV販売台数は前年比+12%の176.5万台とテスラに2万台差まで迫った。2024年10~12月期では約1年ぶりにテスラの販売台数を超えており、2025年年間のEVの世界販売台数では、BYDがテスラを超える可能性が出てきた。
浮上する反マスクの機運もテスラの逆風になるか
一方マスク氏は、2024年10月に、2025年のテスラの販売台数が20%~30%増加するとの予想を示している。この見通しは25年前半に予定されている低価格モデルの投入と自動運転技術の進化を基にしていると考えられる。 テスラは2025年前半に生産を開始するとしてきた3万ドル(約470万円)以下の低価格EVの発売を予定している。またテスラは、EV販売が減少する中、人工知能(AI)を活用した自動運転を新たな成長分野と位置付けており、2026年には自動運転タクシー「サイバーキャブ」を生産する計画を示している。ただしこうした計画は依然として具体性を欠いており、2025年以降にテスラの販売台数が回復するかは不透明だ。 さらにテスラにとって新たな逆風となっているのが、トランプ次期政権に近づく「政商」としてのマスク氏のイメージ悪化だ。マスク氏はトランプ次期政権で政府効率化省(DOGE)を主導することが決まっている。DOGEは連邦政府の無駄な支出の削減や規制緩和を推進する役割を担っているが、マスク氏が自ら保有する企業のビジネスに都合の良い形でその職を利用するのではないかと懸念されている。既に、テスラ社の新たな成長領域と位置付けられる自動運転分野では、トランプ次期政権の下で規制緩和が計画されているとされる。 トランプ次期政権の下でマスク氏が自らのビジネスに都合の良い政策を進め、いわば利益誘導を行うのではないかとの懸念が、消費者の間でも生じている。そうした反マスクの機運が、テスラの不買運動に結び付けば、米国内でのテスラ社の販売不振をさらに後押ししかねない。 テスラの販売不振と時を合わせて生じたマスク氏のトランプ次期政権への接近が、果たして同氏のビジネスに強い追い風となるのかどうかは、まだ見通せない。DOGEでのマスク氏の活動が利益誘導に当たるとの批判を浴び、いずれ、マスク氏がトランプ次期政権と距離をとることを強いられるようになる事態も考えられるのではないか。 (参考資料) 「24年の米テスラ販売、初の前年割れ=EV需要、米欧で停滞」、2025年1月3日、時事通信ニュース 「テスラの世界販売が初の減少、24年1%減 中国BYDが肉薄」、2025年1月2日、日本経済新聞電子版 「テスラ、年間販売初のマイナス 反転のカギは低価格EV」、2025年1月3日、日本経済新聞電子版 「それでもテスラ乗りますか マスク氏に抵抗始めた利用者」、2025年1月3日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi)に掲載されたものです。
木内 登英