睡眠障害に隠された病気 睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、うつ病…眠れないイコール不眠症とは限らない
不眠の高齢者の約4割に睡眠時無呼吸症候群
例えば睡眠中に呼吸停止を繰り返す睡眠時無呼吸症候群では、酸欠に耐えられずに覚醒反応が起こり何度も中途覚醒が生じます。高齢者を対象にした調査では、不眠がある高齢者のうち約4割で睡眠時無呼吸症候群が見つかっています。 また、夕方から就寝時刻にかけて下肢にむずむず、ほてり、炭酸が泡立つような不快感が生じて寝つけなくなるレストレッグス症候群(むずむず脚症候群)なども慢性不眠の大きな原因になります。 睡眠中に下肢の筋肉のピクツキ(ミオクローヌス)が生じて中途覚醒が生じる周期性四肢運動障害と呼ばれる睡眠障害も少なくありません。 そのほかにも不眠を伴う睡眠障害は数多いのです。しかもこれらの睡眠障害には睡眠薬は効果がなく、むしろ症状が悪化するケースもあるので要注意です。
慢性不眠の成人の30~40%に精神疾患
また心身の病気で不眠が生じることもあります。大事なのはうつ病、不安症、アルコール依存などの精神疾患を見逃さないことです。 欧州で行われた1万5000人を対象にした大規模な調査では、慢性不眠のある成人の30~40%に何らかの精神疾患が認められ、その半分はうつ病などの気分障害であったそうです。 病院を受診したうつ病患者さんは主に不眠や食欲低下、倦怠感などを訴える傾向があり、抑うつ気分や興味や関心の減退などのうつ病の中核症状を自覚できていないことが多いため、不眠症と誤診されることがしばしばあります。 そのほかにも痛みやかゆみによる不眠、心不全や呼吸器疾患による夜間の息苦しさによる不眠、持病のために服用中の治療薬の副作用による不眠など、その原因は多種多様です。不眠があれば不眠症と決めつけず、かかりつけの先生に心身の状態を正しく伝えましょう。 不眠症の診断と治療のガイドラインでも、睡眠薬などによる治療を受けても効果が出ないときは、安易に薬を変更したり増量したりする前に「この不眠は本当に不眠症なのか?」と振り返ることが大事だとされています。
三島和夫(みしま・かずお)
秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。