水門開閉「劇的に負担軽く」、アプリで遠隔操作 先進地の福岡・遠賀町に視察相次ぐ
大雨の時に内水氾濫を防ぐために行われる、川に設置された水門の開閉。操作員の安全確保や負担軽減を図るため、後付け装置で電動化する取り組みが各地で広がっている。遠賀川の下流域に位置する福岡県遠賀町は、現場に出向かなくても操作できるシステムも導入して「効果を実感している」(同町)という。 (特別編集委員・長谷川彰) 【写真】現場に出向かなくても水門の確認や開閉操作もできるアプリの画面 遠賀町は、響灘に注ぐ遠賀川の下流左岸に広がる平野部にあり、農地を中心とした平たんな土地が町域の約7割を占めている。このため1953年の西日本水害の際は、広範囲で浸水被害が広がり、多くの町民が避難生活を強いられた経験を持つ。 それを教訓に、遠賀川の支流につながる水路網の管理などに努めてきており、その一環で行ったのが町の中心部に程近い、平田川井堰(いぜき)の水門の遠隔操作化事業。 この水門は、町が管理する平田川と県が管理する戸切川の合流地点にあり、もともとは農業用水の確保と、響灘の満潮に伴う遠賀川からの逆流水による塩害防止が主な役目だった。2013年度から開閉装置の電動化、河川監視カメラの設置などを行ってきた。 ただ「近年は一帯の宅地化が進み、幅広い浸水対策としての重要性が増してきた」(同町建設課の小田浩史主査)。同じ遠賀川の中流域に位置する直方市が20年度から遠隔操作を含めたシステムの実証実験に取り組んでいるのを知り、これに参画。導入を決め、22年度に整備を終えた。 システムを提供したのは同町内に工場を持つ、産業用機械メーカーのジェー・フィルズ(北九州市)。水門を開閉するために人力で行っていたハンドル操作を電動化する後付け装置を開発。通信機能を使って町の庁舎内の端末機器や担当職員のスマートフォンから遠隔操作できるようにした。 この水門に関しては、同町産業振興課の職員が直接担当しており、同課の山下啓輔係長は「突然のゲリラ豪雨にも迅速に対応することができ、劇的に負担が軽くなった」と話す。 設置工事の完了後すぐに運用を始め、課長以下5人が操作アプリの入ったスマホを所持。まず水門付近の監視カメラ映像を見ることができるアプリで状況を把握し、開閉操作アプリで水門を動かす。稼働状況もスマホ画面を見ながら確認できる。 以前のように現場に駆け付ける必要がなく、庁舎外のどこにいても操作可能。「特別な大雨注意報などが出ていなくても、天気予報で川の水位に影響が及びそうな雨が予想されたら、適宜操作しており、この1年半で数え切れないほど活用しました」(山下係長) 開閉装置は、停電したり通信が途絶えたりした場合には充電式のドライバードリルで操作できるほか、以前の手作業でも行える構造だ。ジェー・フィルズのセールスエンジニア谷隆太郎さんは「最悪の状況も想定し、操作ができない事態が起きないよう多重的な仕組みを整えた」と説明。導入費用は1基500万~600万円という。 町には各地の自治体から視察も続いており、同社によると、遠隔操作システムまでは踏み込まないものの電動化装置を採用して省力化を図るケースも多いという。鳥取県は県が管理する手動式の水門199基のうち、重要度が高いと判断した160基を25年度までに電動化する計画を進めている。 全国的に操作員の高齢化が指摘されており、雨中や夜間の現場作業の安全確保策が急務だ。天候が悪化する前の昼間に事前操作できるような場合でも電動化による省力のメリットは大きい。財政面で二の足を踏む自治体は多いと思われるが、先行事例を参考に検討を勧めたい。