みつはしちかこ 60年以上続く『小さな恋のものがたり』秘話。アイデアが尽きて追いつめられるなか、母の墓参りに行ってみると…
◆母に会いたい、亡き母からの伝言 けれども、この季節になると、もう描けない、もうおしまい、もうアイデアなんて出てこない、といった思いに押しつぶされてしまいそうになります。 60年以上も、ひとつの片思いを追いつづけているのだもの、面白いことは、すでにもう描いてしまった……。 そんな気持ちになって、あせればあせるほど、なんにも出てこない。 ──去年も同じように追いつめられて、わたしはふと母のお墓参りを思いたちました。 こんなふうに自分が落ち込んでどうしようもないときに、ふっと苦しいときの神頼み的に思い出すのです。 あの、遠い、ほとんど夢のような母に会いたい──母のお墓へ行ってみよう。 と、思いたったら矢も楯もたまらず、こっそり飛んでいきました。 2時間半たらずで来られるところなのに、わたしはもう、何年もお墓参りに来ていなかったのです。
◆クロッカスの花 久しぶりに訪ねた母の墓前の原っぱに、思いがけず、明るい紫と黄色のクロッカスがわたしを出迎えるように、ぽかっ、ぽかっと咲いていました。 それはもう70年以上前に亡くなった、遥かな母からのメッセージを伝えているようでした。 母は、グズで落ちこぼれのわたしに絵の才能があることを最初に認めて、褒めつづけてくれた人でした。 わたしは、病床にあったこの母のために、将来はきっとマンガ家になって母を喜ばせてあげるのだ、と幼い心に誓っていました。 「ちいちゃん、あきらめないで、投げ出さないで、心を込めて描きつづけなさい」と、クロッカスの花が、母からの伝言を発していました。 ※本稿は、『こんにちは! ひとり暮らし』(興陽館)の一部を再編集したものです。
みつはしちかこ
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