世界有数、育成超名門責任者に聞く“選手の育て方”とは? 一人ひとりに寄り添い「ロボットではなく、本物の選手」を育てる
■「私たちの責任」で選手を教育する
―――「良い選手」とはどんな選手だと考えていますか? もちろんポジションにもよります。ゲームは常に進化していますし、今日のゲームが明日のゲームとは限りません。その中でもスピードは非常に重要な点で、すべての選手が一定のスピードを持つ必要があります。また、フランスではテクニカルな技術が重要なので、ボールをコントロールする術を知っていなければなりません。ストライカーで言えば、体が大きくてもいいし、スピードがあってもいいです。つまり、「人それぞれ」ということになりますね。私たちは、選手のプロフィールの全体像を把握した上で、それぞれの基準や指標が十分に高ければ、選手たちを受け入れ、一緒に仕事をしていきます。そして、トップチームとリンクさせていき、トップチームが持つ各ポジションの基準と、アカデミーの選手たちの指標と基準が一致すれば、トップチームでプレーすることになります。 ―――それでも全選手がトップチームでプレーすることはできません。アカデミーとして人間教育という点はどのように向き合っていますか? どの選手もクラブを代表しなければなりませんが、同時にモナコは世界でも特殊な位置付けにあり、モナコ公国を代表する選手でもあります。だから、彼らはその準備ができていなければいけません。 私たちの教育の仕組みについてですが、『ラ・ディアゴナル』と呼ばれるアカデミー施設があり、その中に学校もあります。学校はとても重要です。私たちにとって、教育はサッカー以上に大切なものです。過去5年間、すべての選手が卒業証書(バカロレア ※高校教育修了認証の国家試験および修了資格)を修めていることを非常に誇りに思っています。これは平均的な学校と比較して、はるかに高いもので、とても重要なことです。 私たちは50人ほどの選手を指導していますが、どのコースにおいても教師陣はクラブが給与を全額支給して組織しています。これにより、学校と「一緒に」仕事をするのではなく、「私たちの責任」で、私たちの価値観を伝えることができるのです。 もう一つは全寮制の学校があることで、選手たちはそこで生活することが義務付けられています。私たちには18人の教育者がいて、彼らの人生の選択を助けるために教育しています。7月第3週目に入寮し、そこから最初に家へ帰れるのは10月末です。つまり、完全に私たちの管理下におかれているのです。もちろんネガティブな面もありますが、それ以上に私たちはともに働き、ともに生活し、選手たちを私たちの子どもとして育てようとしているのです。 ―――その選手たちを見つけるスカウトの存在は重要です。スカウトする人の能力として重要な点は何でしょうか? フランス全土をカバーする、アカデミーのためのフルタイムスカウトが13人います。彼らとは年に4回ほどのワークショップを行い、私たちの指標を理解してもらうようにしています。もちろんスカウトの個人的な影響は常にありますが、私たちが「何をすべきか」というガイドラインも当然あります。スカウトが試合を見て、「面白い選手がいた」と報告しますが、そのレポート内容は私たちが示している指標と照らし合わされているかが重要になります。 そして、最終的な決断を下す責任者が1人います。他のスカウトを束ね、責任者がプロセスを統括します。私たちには厳格なプロセスがあり、それに従わなければならないからです。ある選手を獲得しようとした場合に、その選手が本当にプロになれる可能性があるのか、その選手の人生においてプロ選手として生きていけるかを確認したいからです。それは正確なものでなければいけませんし、ギャンブルはできません。