アスリートが直面する引退後のキャリア。元サッカー日本代表・石川直宏さんが農業を始めた理由
クックパッド初代編集長の小竹貴子が、食を通じて社会課題の解決に取り組む人にお話を聞く企画。元サッカー日本代表であり、現在FC東京のコミュニティジェネレーター石川直宏さんにお話を伺いました。 ◇ ◇ ◇
元サッカー日本代表が育む、最上級とうもろこし
「美味い! 完熟した柿かと思うほど甘い! こんな美味いとうもろこしは久しぶり!」 ――一人の感動がSNS上で爆発しました。生でかじって美味しいと皆が夢中になるとうもろこし、名を「なおもろこし」。元サッカー日本代表であり、現在FC東京のコミュニティジェネレーター石川直宏さんが農場長を務める「NAO's FARM」で採れたとうもろこしは、現役時代の愛称「ナオ」から「なおもろこし」と名付けられました。 この「なおもろこし」は、品種は「プレミアム味来85」でブドウや桃に勝るとも劣らない糖度を持ち、バイオスティミュラント(※)資材を活用し、減農薬・減化学肥料を実現することで品種のもつフルーティーな甘さを最大限引き出す栽培に取り組んでいます。 FC東京のホーム・味の素スタジアムにある南側広場で、期間限定で販売される名物グルメ(スタジアムグルメ)なのです。 (※)植物に対する非生物的ストレスを制御することにより気候や土壌のコンディションに起因する植物のダメージを軽減し、健全な植物を提供する新しい技術のこと
8月、真夏の太陽がじりじりと照りつける味の素スタジアム。 キックオフは19時にもかかわらず、昼間からスタジアム周辺は熱気に包まれ、外には長い列ができていました。並ぶ人々が目指すのは「なおもろこし」。サッカーファンだけでなく、とうもろこし愛好家さえも心を奪われる究極の一品は、15時の販売開始前から大行列になることが珍しくありません。
スタジアムで試合が開催される日に合わせ、早朝5時前の日の出とともに、石川さんとスタッフは長野県飯綱町の畑に集合し、600本ものとうもろこしを慎重に収穫します。品質をチェックし、9時にはトラックに積み込み、250キロの道のりを3時間半かけて東京へ向かいます。朝の早さや長時間の労働にもかかわらず、石川さんたちは疲れを見せず、スタジアム到着後はファン一人一人に心からの笑顔で対応します。「昔からなおさんのファンなんです、やっと会えて嬉しい」と感極まって涙ぐむ人。「新鮮なとうもろこしをかじりながら観戦したい」と瞳を輝かせる親子連れ。対話を大事にする石川さん、ファン同士の温かな交流がそこには広がっていました。石川さんの取り組みは、サポーターに特別な体験を提供し、クラブへの愛着をさらに深めるきっかけとなっているようでした。そして「なおもろこし」はあっという間に完売してしまいました。 しかし、なぜ石川さんはコーチや監督という道を選ばず、農業の道へ進んだのでしょうか。