「引退馬って呼び方もやめたい。引退しても馬の人生に終わりはないから」 名馬たちの個性をプロデュースし、引退馬ビジネスに革命を起こすヴェルサイユリゾートファームを訪ねて(後編)
〝馬のセカンドキャリア〟が注目されている近年、「引退馬が余生を送れる牧場」として北海道・日高町に開場されたYogiboヴェルサイユリゾートファームは、寄付や預託料の支援が中心だった引退馬ビジネスに革命を起こしている。牧柵を壊すダービー馬タニノギムレット、絵を描く砂の王者ワンダーアキュートをキャラクタ―化したり、新たな価値を生んでいる。彼らが収益を生んで〝自活〟する運営を目指す岩﨑崇文社長は「馬は一緒に働くビジネスパートナー」と胸を張り、乗馬として再調教するインドア(屋内馬場)の建設を目標にクラウドファンディングも実施中。余生ではなく、今を生きる引退馬の可能性を模索し続けている。(文・大塚美奈) ◇ 〝ヴェルサイユ〟で暮らす馬たちはどんな存在?と尋ねると、「一緒に働くビジネスパートナー」と迷いのない声で返ってきた。 その最たる成果はアドマイヤジャパンのCMだ。放牧地に置いたYogiboのクッションで爆睡する姿がいわゆるバズった。 馬が無防備に眠るという型破りなアイデアは実にシンプルで「できたらいいな、みたいな…」と照れ笑いする。 「ジャパンの前にYogiboを置いたらどうなるかな?ってカメラを構えていたら5分くらいで寝てくれました(笑)。その動画を公開してから競馬ファンじゃない方もたくさん来てくれるようになって牧場の認知度が一気に上がりました。運がいいんです」と謙そんした。 当然、強運なだけではない。馬が〝自活〟するために彼らの個性を発掘してきた。強烈な足蹴りで牧柵を壊すのが得意なタニノギムレットを破壊神と命名。ダービー馬が壊した牧柵がほしい、というファンの声を受け、本来廃棄するはずの木材をキーホルダーなどのグッズに変身させた。寝藁を金髪ウィッグのように頭にかぶせて遊ぶトウケイヘイローの画像はアフロヘイ君の愛称で話題となり、牧場名にちなんでオスカルとも呼ばれるようになった。 24年10月に種牡馬を引退し、新たに仲間入りしたワンダーアキュートはハンチング帽をかぶって絵を描く姿が人気を集め、画伯という称号が加わった。