「引退馬って呼び方もやめたい。引退しても馬の人生に終わりはないから」 名馬たちの個性をプロデュースし、引退馬ビジネスに革命を起こすヴェルサイユリゾートファームを訪ねて(後編)
「パリ五輪の総合馬術団体で初老ジャパンが銅メダルを取ってくれたので、ムーブメントがある今だからやらないわけにはいかない、というか、熱いうちに鉄は打っちゃいたい気持ちはあります。馬に興味を持って乗馬をやりたい、という人が増えたら、この子たちが働ける場所が増える」とほほ笑んだ。
32歳が描く夢はどこまでも壮大で、「いつか本州にこの牧場の形を持っていきたい」と宣言。「多くの人にとって北海道は飛行機に乗らないと行けないっていうハードルの高さもあるので、たとえば関東圏から電車や車で出掛けられる軽井沢とか那須にこういう場所があるといいなって。各地でドライブして通ったら〝馬がいる〟みたいな感覚にしたい。世界的にあったらいいな、とも思うし、実際に海外から馬を預かってほしい、というオファーも受けています。いつかフランチャイズ化できたら」と牧場でリトレーニングした馬を〝派遣〟する計画も軽々と想像してみせる。
崇文さんは12月28日、馬場馬術の杭州アジア競技大会2022日本代表で学生時代から乗馬を通じて知り合いだった高田茉莉亜さんと結婚。〝ヴェルサイユ〟の芦毛馬アニバーサリーが茉莉亜さんとCMに出演した際、撮影現場で再会して結ばれた。馬術の日本代表を目指す最愛の伴侶は、リトレーニングの担当にも決まっており、馬たちにとっても心強い家族となる。
すべては馬が幸せに暮らし、それを人が楽しく支えていくためでもある。その強い覚悟はどこから生まれるのか―。
「ジャパンであったり、アキュートであったり、なんだかんだ馬に助けられて今まで生きてこられている気がするんです」としみじみ語り、「引退馬って呼び方もやめたいんです。引退しても馬の人生に終わりはないから。もっといい名前がないかな」とつぶやいた。
年輪を重ねた存在感に、魅力的な個性を加えてファンに愛される〝ヴェルサイユの馬〟は、ビンテージ・ホースとして第2の旬を生きている。(終)