WWEの元構成作家が語るビンス・マクマホン、言葉の暴力や性差別「生きるか死ぬか」の日常
オフィス内でもマクマホン氏と女性社員に関する噂が飛び交っていた
ローリングストーンが取材した6人の元作家は、マクマホン氏の性的暴行や人身売買の疑惑については直接的なことは何も知らないか、何も言うことはないと語っていた。だがグラントさんが訴訟を起こしたと知ってもとくに驚かなかったとも言う。元CEOの過去の疑惑について見聞きしていただけでなく、オフィス内でもマクマホン氏と女性社員に関する噂が飛び交っていたそうだ。 「あそこまでクレイジーなことは見ませんでしたが」と元作家の1人は語った。「在職中に他の作家が、『だよな、この会社にはどんな仕事しているのか分からない女性社員もいるよな』と冗談を言っていたのを聞いたことはあります」。マクマホン氏の口止め料疑惑が持ち上がると、「私が知っているビンスとはまるで違う」と感じた作家はいなかったそうだ(2022年、口止め料に関するウォールストリートジャーナル紙の報道を受け、WWEの広報担当者は「弊社はこの件に対する捜査全般に協力し……疑惑を真摯に受け止めております」と同紙にコメントした)。 別の元作家は、「驚きはしませんでしたが、だからといって平気だったわけではありません」と語った。その元作家はグラントさんの訴えを詳しく読んで、「あの職場は最悪だった、とようやく自由に発言できるようになりました」と付け加えた。 マクマホン氏には別の一面もあるとレオナルディ氏は指摘する。同氏が率いる会社が「素晴らしい業績を残し」、元CEOが在任中に「大勢の人々を気にかけ」、多くの雇用を創出ことは否定できないとレオナルディ氏は言う。だがマクマホン氏がビジネスの才覚に長け、目をかけた社員に手を差し伸べていたとしても、裏で行われていた不品行疑惑が帳消しになるわけではない。 「様々な真実が存在しています。彼は数々の偉業を残し、ビジネスで多くの人々に無欲で尽くした。その結果として大勢が彼に忠誠を示し、良き社員であることを証明した。こうした事実は認めなくてはなりません」とレオナルディ氏。「でも(彼には)別の顔もあるんです」。 WWEの元作家チーフで、現在はロックことドウェイン・ジョンソン率いるSeven Bucks Production社の開発副部長を務めるブライアン・ゲワーツ氏は、2022年8月にマクマホン氏の下で働いた経験をまとめた著書『There’s Just One Problem…: True Tales from the Former, One-Time, 7th Most Powerful Person in WWE(原題)』を出版した。マクマホン氏をテーマにしたNetflixのドキュメンタリーにも出演したゲワーツ氏は、著書でWWE時代の様々なエピソードを披露している。マクマホン氏を肯定的にとらえたものもあれば、ローリングストーン誌が取材した6人の元記者の話を裏付けるものもある。本の中でゲワーツ氏は一触即発のWWEの文化について触れ、構成作家にとっては「生きるか死ぬか」の状況だったと書いている。自分自身も「食い物にされるのでは」と身構えていたと語り、マクマホン氏が他のスタッフを怒鳴りつけた出来事にも触れ、「ビンスが会社そのものだった」と記している(本記事にあたりゲワーツ氏にも接触を試みたが、連絡がつかなかった)。 数十年におよぶマクマホン時代が終わり、WWEは新たな時代を迎えている。現在はマクマホン氏の義理の息子、レスリング界ではリングネーム「トリプルH」で知られるポール・レヴェスク氏が同社のチーフ・コンテンツ・オフィサーを務めている。ローリングストーン誌が取材した元構成作家の中には、マクマホン氏が去った今、WWEも前に進もうとしていると考える者もいる。トリプルHを「素晴らしいリーダー」だというレオナルディ氏は、職場の雰囲気が改善されてスタッフが「以前より明るくなった」という話を聞いたそうだ。 だがWWE全体の雰囲気に大きな変化があるとは信じられずにいる元作家もいる。WWEのライタールームに長く根付いた緊張と恐怖の雰囲気が、一朝一夕でなくなるとは思えないというのが彼らの本音だ。 「大勢が加担して、こうした社内文化が続いてきた」とある元作家は言う。「トリプルHが実権を握ったからといって、変わったかどうかはかなり疑問だ。本当の意味で変わるとは思えない」。
Krystie Lee Yandoli