WWEの元構成作家が語るビンス・マクマホン、言葉の暴力や性差別「生きるか死ぬか」の日常
「まるでオヤジ連中の下ネタトークでした」と元作家は語る
WWEのライタールームで人種に無神経な出来事があった例は他にもある。元WWE構成作家のブリトニー・エイブラハムスさんは2023年、同社とマクマホン氏を含む一部重役を相手に訴訟を起こし、自分が2022年に解雇されたのはライタールームで受けた人種差別について苦情を申し立てたからだと訴えた。裁判資料によると、黒人女性のエイブラハムスさんは台本が典型的な人種差別に基づいていることに不満を覚え、はっきり口にした。彼女はレッスルマニアのイベントで記念品のパイプ椅子を持ち帰ったことが原因で解雇されたとあるが、過去に同じことをした白人社員はお咎めなしだったという。訴訟は後に取り下げられ、エイブラムスさんの弁護人を務めたデレク・セルズ氏は「友好的に解決した」と、レスリング情報サイトWrestlenomics.comの記者に語った。 ローリングストーン誌が取材した元WWE構成作家によると、ライタールームは前職とはまるで大違いだったそうだ。ひとつには、800人以上の社員を抱える企業のCEO、マクマホン氏が自ら定期的に構成作家チーム(本社での収録か巡業かによって異なるが、だいたい20~25人)に加わって指揮を執るというのは、普通ではとうていありえなかった。服装規程など常識はずれなルールもあった。ローリングストーン誌が入手した服装規程に関する書面には、男性はスーツ、女性はスカートかワンピース、またはパンツスーツの着用が義務付けられていた。さらに、従業員は全員つねに靴を磨いておくよう指示された。他にもエンターテインメント業界の常識ではあまりお目にかからないようなルールもあったそうだ。構成作家の話では、くしゃみは弱さの表れとされ、マクマホン氏の前ではご法度だと言われた。クマホン氏が入室する時は必ず起立し、同氏が座ってから着席するよう指示されていたという。 「匿名作家たちの主張は、ライタールームの実情とは似ても似つかないものです」とマクマホン氏の広報担当者は声明の中で述べている。「ビンスは部屋に入る際、他の者に起立を命じたことは一切ありません。ばかばかしい」(ローリングストーン誌が取材した元作家の話では、マクマホン氏本人から指示されたわけではなく、直属の上司から規則に従うよう言われたそうだ)。 中でも尋常でない点が、マクマホン氏が最終的な台本に口を挟んでいたことだと元作家陣は言う。2年前にWWEのCEO兼会長を辞任するまで、マクマホン氏は毎回どの台本にも首を突っ込んでいた。元作家らはこうしたプロセスが必ずしも共同作業とはいえなかったと語っている。構成作家はまず下っ端社員とチーフ作家にネタ出しをし、マクマホン氏同席のもとであらためてネタを提案する。だが結局は収録当日にマクマホン氏が手を加え、すでに自分がOKを出したものであろうとお構いなしに、まるきり違う台本ができあがる。同氏は独裁者ぶりを発揮するかのごとく、「放映直前ですべてぶち壊した」とある元作家は語る。 「彼が制作ルームで何を言おうと、(初期の段階で)気に入ろうと関係ない。結局番組直前にひっくり返ることになるんだから」と言う元作家もいる。「月曜を迎えて制作会議に全員集合するころには、他のハプニングが起きる。まるで茶番だよ、自分たちはビンスの気まぐれを満足させるためだけに存在しているみたいだった。自分たちはビンス・マクマホンのお抱え書記だったんだ」。その元作家は、マクマホン氏がころころ指示を変えるのはほぼサディスティック的だった付け加えた。「ビンスは他人を操るのを楽しんでいたんだと思う。ころころ物事を変えるのを楽しんでいた。始終他人を慌てさせるのが好きだった。番組や構成のためじゃない、ビンスは周りが右往左往するのを楽しんでいるだけだと実感したね」。 元作家陣によると、その週に放映される番組の台本について話し合うための会議でも、スタンフォードのオフィスでマクマホンが現れるのを夜遅くまで待つことはざらだったそうだ。おうおうにして待ち時間は「数時間におよび、待機している理由が分からないこともあった」と言う元作家もいる。時には深夜になっても会議が始まらず、明け方2時、3時、4時まで続くこともあったそうだ。 マクマホン氏の広報担当者の声明には、「スポーツ業界やエンターテインメント業界ではよくあるように、構成作家の仕事は9時5時勤務ではありませんでした。ビンスはあちこち出かける予定がありましたし、会社のCEOとしての様々な職務に加え、年間数百回におよぶライブイベントやTV放送のコンテンツをすべて取り仕切っていました。こうしたスケジュールゆえに、新しいアイデアを実行する必要がある場合や台本に変更を加えなければならない場合、会議が夜更けまで続く場合もありました」とある。 元作家陣によると、問題の発生源はマクマホン氏だけではなかった。ある元作家も言うように、マクマホン氏から直接嫌な思いをされなかったとしても、同氏を怒らせるのではないか、仕事を失うのではないかという恐怖から、実権を握る他の作家が「いじめ役」に転じるケースもあったそうだ。こうした形でマクマホン氏に忠誠を示した作家は熱烈なレスリング・ファンで、WWEの世界でキャリアを積んだ者が多かったという。 「自分が今まで仕事をした中でも、一番みじめな連中だった。だが彼らの多くがあそこで社会人経験を積んでいたから、それが唯一のルールだったんだ」と元作家は言う。「一般的なTV番組の職場環境がどんなものか、彼らはまるで知らなかった」。 先輩の構成作家が別の作家に、「お前の親父が母親に腹出ししてたら、お前なんか生まれてこなかったのに」というような趣旨の発言していたのを目撃したと言う元作家もいた。 「まるでオヤジ連中の下ネタトークでした」とその元作家は語った。さらに誰かが昇進して「内部の人間」へと近づくにしたがい、「空気が一層ピリピリし、ああいう『オヤジ連中』の相手をする羽目になりました」とも語った。 マクマホン氏の寵愛を得ようとする作家陣は、やがて互いに反目し合うようになったと元作家陣は語る。WWEのライタールームの雰囲気を「マフィア」の幹部構造になぞらえた者もいた。「自分が何かすると、目上の3人を怒らせる。そいつらは食って掛かり、怒り、復讐に燃える」。 「一体何が起きているのか、訳が分かりませんでした。誰も目を合わせないし、誰も話しかけないんですから。めちゃくちゃ変でした」と別の元作家も語っている。「みなビクビクして、笑いが起きるのは誰かをコケにする時だけ……言葉の暴力や屈辱のせいで、全員が心を閉ざしていました。悪いリーダーがいる組織にありがちな傾向です」。