歴代最長「安倍政権」7年8か月のレガシーは何か?
政策実現へ「慣例」破った人事権の活用
制度的リソースについては、安倍首相が政府内と自民党内における人事権を積極的に活用したことが注目される。首相が実現したい政策に対して与党議員や官僚が抵抗しているといった場合には、抵抗する者を主要ポストから外し、賛同してくれる者を代わりに据えるのがもっとも効果的である。 実際に安倍首相は、人事権を効果的に活用して自らが望む政策を実現させてきた。政権発足直後の2013年3月には、大規模緩和に積極的な財務省出身の黒田東彦氏を日本銀行総裁に登用した。黒田総裁は「黒田バズーカ」と呼ばれる量的・質的緩和を繰り出した。同年8月には、外務省出身の小松一郎氏を内閣法制局長官に起用した。これまでの長官人事は法制局からの内部登用が慣例だったが、従来の法制局は集団的自衛権行使に消極的だったため、慣例を破って外部からの登用に踏み切ったのである。 2014年5月には内閣人事局が設置された。同局の主要な仕事の一つは、官僚の幹部人事の一元管理である。内閣人事局が幹部候補者名簿を作成した上で、その名簿に基づいて、各大臣が首相・官房長官と協議して人事を決定する。この内閣人事局の設置により、官僚幹部人事に対する首相官邸の影響力は大きく強められた。森友・加計学園問題で官邸に対する官僚の「忖度」が取り沙汰されたのはこのような事情が背景にある。 党内の掌握においても同様に、自民党総裁として首相が持つ人事権が大きな役割を果たした。2015年に軽減税率導入に慎重な野田毅税制調査会長が更迭されたことはその象徴的事例といえよう。
「保守」と「リベラル」折衷主義
安倍政権が高支持率を維持した背景には、政権の折衷主義的な性格も大きいと考えられる。安倍政権は本来保守(右派)的な性格を持つと思われていたが、実際には働き方改革、女性活躍、全世代型社会保障などリベラル(左派)的な政策も実施してきた。改憲などの保守的な課題を掲げることで従来からの支持層をつなぎ止める一方で、リベラル寄りの政策も取り入れることで支持を拡大したのである。いわば「左にウイングを広げた」ことにより、保守とリベラル双方の有権者に訴えかけることができた。 加えて、安倍首相は「岩盤規制打破」や農協改革といった構造改革を掲げる一方で、国土強靭化の名の下に公共事業予算を増やすなど、従来の自民党の典型的な政策も採用した。 このように折衷主義的な(カメレオン的といえるかもしれない)性格のため、有権者は安倍政権の中に自らの見たいものを見ることができた。保守的な有権者は改憲などの課題実現を強く支持し、伝統的な自民党の支持層も安心して安倍政権に乗ることができた。一方で、イデオロギー的政策には反応しない層もアベノミクスの恩恵を受け、改革を好む有権者は首相の改革志向的な言説に期待を寄せることができた。社会保障政策や軽減税率では連立与党の公明党の支持層にも訴えかけることができた。 構造改革を一貫して唱え続けた小泉政権は自民党内の対立を招いたが、安倍政権は折衷主義的な政策を採用することにより、公明党を含む与党内の結束を維持し、安定的な政権の維持に成功した。