なぜ浦和レッズの新星GK鈴木彩艶はイニエスタを止めることができたのか…デビュー以来3戦連続無失点は26年ぶり快挙
絶対に先に動くな。ここは我慢だ。浦和レッズのゴールマウスを託される18歳の守護神、鈴木彩艶(ざいおん)は心のなかで何度も自らに言い聞かせながら、ペナルティーエリア内へ侵入してきたレジェンドの一挙手一投足に全神経を集中させた。 ホームの埼玉スタジアムでヴィッセル神戸に2-0で快勝し、今シーズン2度目の3連勝で6位へ浮上した22日の明治安田生命J1リーグ第15日。浦和にとって最大のピンチは、1点をリードして迎えた後半19分に訪れた。 左タッチライン際でサイドチェンジのパスを受けた神戸のDF初瀬亮が、ペナルティーエリア左角の外側で仕掛ける。前へ行くと見せてターンし、入れ替わるように近づいてきたMFアンドレス・イニエスタへヒールでボールを預けた。 後半2分に先制点を決めていたMF田中達也が、慌ててマークする相手を変える。しかし、イニエスタはボールを右足で引っかける形で強引に縦へ抜け出し、ペナルティーエリア内の左側、ほとんど角度がない位置で身体を浦和ゴールへ向けた。 この瞬間、浦和ゴール前には神戸の選手3人がいた。ただ、全員が浦和の選手たちにマークされていた。それでもパスを通すのか。あるいは、自らシュートを打ってくるのか。ボールを持つイニエスタと至近距離で対峙しながら、瞬時の判断を求められる難しい局面で、J1リーグ戦でデビューしてまだ3試合目の彩艶は驚くほど冷静だった。 「コースがあまりない角度だったので、自分から先には動かずに、来たボールに対して反応しようと思っていました」 イニエスタに近いサイドのゴールポスト際から、彩艶は我慢して動かなかった。自分の右側にあるポストと近い距離を保っておけば、相手の選択肢からニアは消去される。次はパスでもシュートでも、ファーに来ると想定する。実際にファーへ照準を定めてきたイニエスタのシュートは、彩艶にとってまさに注文通りだった。 最後は迫り来るボールの高低や強弱を見極める作業を完遂させる。イニエスタの右足から放たれたグラウンダーの強烈な一撃は、浦和の選手たちのわずかな隙間をすり抜けてきたその先で、左側へ身体を投げ出しながら彩艶が伸ばした左手に食い止められた。 極限まで集中力を高めながら、最後は身長189cm体重91kgの恵まれた身体に宿る反射速度をフル稼働させる。シナリオ通りのシュートストップを「上手く弾けたことはよかった」と振り返った彩艶は、感謝の思いを込めてこうつけ加えている。 「落ち着いてプレーすることはできましたけど、味方の選手たちに助けられる場面が多くて、それで守備面でゼロを続けられていると思っています」