なぜ森保監督は移籍先が宙に浮いている浅野拓磨を招集したのか?
日本代表メンバーの発表時には、日本サッカー協会(JFA)から配布されるプレスリリースにポジションと名前、カナおよび英字のパスポート表記、生年月日、身長と体重、所属クラブ、国際Aマッチの出場数と得点数が常に記される。だからこそ、20日に新たに出された2通のプレスリリースは異彩を放った。2試合に途中出場し、1ゴールをあげた3月シリーズに続いてFWとして招集された浅野拓磨(26)だけが、所属クラブの欄が空白となっていたからだ。 空白とは所属クラブなしの状態を意味する。オンラインでメディアに対応したJFAの反町康治技術委員長は「私に答えられる範囲は狭いので、コメントするのは難しいところではある」と前置きした上で、浅野に対してこう言及した。 「報道にあるようなことも把握しているが、クラブマターの話。代表に欠かせない選手ということで選ばせてもらっている」 反町委員長が言及した「報道に――」とは、浅野が2022年夏まで結んでいたセルビアの強豪パルチザンとの契約を、度重なる給与の未払いなどを理由に、今シーズンが終盤に入った今月2日に電撃的に解除した一件を指す。 パルチザンも公式ウェブサイトで「契約条項に違反する、自発的で根拠のない退団。あらゆる法的手段を講じて、FIFA(国際サッカー連盟)の管轄機関に提訴する」と表明。怒りをあわらにし、徹底抗戦の姿勢をいまも崩していない。 その後はトルコのメディアで、同国1部リーグで6度優勝したトラブゾンスポルへの加入が合意に達したと報じられた。しかし、浅野自身はパルチザン退団を表明した自身の公式ブログを一度も更新しないまま、騒動の渦中で沈黙を貫いている。
泥沼の様相を呈するなかで、反町委員長は浅野をめぐる動きを代表チームの活動とは別問題と位置づけた。その上で新天地が正式に決まっていない状態のまま、今月28日のミャンマー代表とのカタールワールドカップ・アジア2次予選(フクダ電子アリーナ)を皮切りに、19日間で5試合を戦う森保ジャパンのメンバーに加えた。 そのなかで、フル代表のメンバー発表に関するプレスリリースが2通同時に発表されたのは、アジアサッカー連盟(AFC)から唐突に指定される形で、ミャンマー戦が国際Aマッチデー以外に割り当てられた異例の日程と関係している。 28日をはさんで国内ではJ1の第16節と第17節が組まれている。しかし、28日は国際Aマッチデーではないため、国内外の選手を拘束する権利がJFAにはない。必然的にシーズンを終えるヨーロッパ組の各所属クラブと、JFAは個々に交渉を重ねてきた。 結果としてミャンマー戦には、ヨーロッパ組25人と浅野が招集された。メンバーのなかにはMF久保建英(ヘタフェ)やDF冨安健洋(ボローニャ)をはじめ、1997年1月1日以降に生まれた東京五輪世代9人が含まれている。 さらにミャンマー戦を終えると、東京五輪世代にDF吉田麻也(サンプドリア)、DF酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)、MF遠藤航(シュツットガルト)の3人を加えた12人が離脱。31日から活動を開始するU-24日本代表に合流する。 吉田と酒井、遠藤は東京五輪本番を戦うオーバーエイジに決定。6月5日にU-24ガーナ代表(ベスト電器スタジアム)、同12日にはジャマイカ代表(豊田スタジアム)との国際親善試合へ臨むU-24代表との融合を図っていく。 そして、フル代表には10人の国内組が新たに合流。24人体制で7日にタジキスタン代表、15日にはキルギス代表と対峙するアジア2次予選(ともにパナソニックスタジアム吹田)だけでなく、3日にジャマイカ代表(札幌ドーム)、11日にはセルビア代表(ノエビアスタジアム神戸)と戦う国際親善試合へ臨む。 ミャンマー戦と残りの4試合とで陣容が一変するからこそ、JFAは2通のプレスリリースを用意した。ただ、FW陣の顔ぶれだけは5試合を通して大迫勇也(ヴェルダー・ブレーメン)と浅野の2人で変わらない。