なぜ阪神の矢野監督はキャンプイン前日に今季限り退任を表明したのか…球団の了承と異例の決断がペナントに及ぼす影響
監督が自ら退任を明かしたケースではないが、2009年のロッテは、キャンプイン前日より、さらに前倒しとなる前年の12月末に当時の瀬戸山球団社長が、ボビー・バレンタイン監督の契約満了に伴い、「たとえ優勝、日本一を果たしても来季限りで退任」を発表した事例がある。2005年に“下剋上日本一“を果たしていたバレンタイン監督の異例とも言える”追放劇“にファンが反発。”ボビー”の残留を求める署名運動を立ち上げ、シーズンを通してフロント批判をスタンドで展開するなどの大騒動となり、結果、このシーズン、ロッテは5位と低迷した。 この渦中にいた元千葉ロッテの評論家、里崎智也氏は、「選手の立場からすると影響はないんです。結果を出さねば給料が下がるわけですから、監督が退任するから頑張ろう、逆にいなくなるから手を抜こう、なんてことはないわけです。あのシーズンに勝てなかったのはフロントとバレンタイン監督が対立し、ちゃんとした戦力補強が行われなかったからであって、シーズン前に退任が公表されたことが理由ではありません」と振り返った。 里崎氏は、その実体験をもとに今回の矢野監督の退任公表が、ペナントレースに及ぼす影響は「それほど大きくない」という見方をしている。 「このタイミングでの今季限り退任発表には驚きましたが、フロントと矢野監督が対立したのが理由ではないのでしょう? そうであればペナントレースの成績や選手への影響はないと思います。実際、オフにスアレスの”後任”を獲得するなどフロントはしっかりと補強をしています。もし矢野監督に不満を抱いている選手がいるとすれば、そういう選手は指揮官の言うことを聞かなくなることはあるかもしれませんが、自分の成績を残すという努力を怠る選手はいませんよ。むしろざわつくのはコーチ陣の方でしょう。次期監督が話題になり、球団を取り巻く“雑音”も増えるかもしれません。でも、結局、やるのはコーチではなく選手です。マスコミの一部は勝てば退任する矢野監督のために一丸となったと報じ、負けると退任発表で求心力がなくなったせいだ、と理由づけするかもしれませんが、実際は、そこまでの関連性はありませんよ」 里崎氏が指摘するように”絶対守護神”スアレスの穴を埋めるため、前パイレーツのカイル・ケラーを獲得、また先発候補として前ドジャース傘下のアーロン・ウィルカーソンとも契約した。ジェリー・サンズの後釜は獲得していないが、2年目のロハス・ジュニアの成長にかけるということなのだろう。 ちなみに里崎氏の現時点での阪神の順位予想は「ブルペンの不安」を理由に3位となっている(優勝は横浜DeNA)。 キャンプイン前日に下した矢野監督の前例なき決断。そして、その揺るぎない覚悟を理解してバックアップを決めた球団フロント。13年前のロッテとは違い、タイガースのフロント、現場の方向性だけはぶれてはいない。そのことは評価されるべきだろう。ただ、この異例の動きが吉と出るか、凶と出るか。阪神は今日1日、沖縄宜野座でキャンプ初日を迎える。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)