なぜ阪神の矢野監督はキャンプイン前日に今季限り退任を表明したのか…球団の了承と異例の決断がペナントに及ぼす影響
矢野監督の哲学は、この日、報道陣に説明した「選手たちに後悔のない野球人生を歩んでもらいたい」「昨日の自分を超える日々を過ごして欲しい」というものである。ならば1年契約を結んだ昨年オフの時点で決断していた自らの「退路」を選手へ伝えることで「明日の2月1日の1日も帰って来ない1日だ」との言葉に説得力が増すのではないか。 矢野監督は、自らの身を挺して、17年ぶりの優勝を狙う環境を作ることを決断した。 キャンプイン前日に選手へ伝え、マスコミにも明かすことは、衝動的な行動ではなく事前に球団サイドとも相談して了承を得ている。 “そのことで矢野監督とコーチ、選手との信頼がより強固になるのであれば”との理解を得て矢野監督は衝撃の退任表明をしたのである。 選手の気持ちを坂本主将は「驚いた。矢野監督を優勝監督にしたい思い、背筋がのびるというか、よし頑張ろうという思いになった」と代弁している。 奇しくも同日に、阪神は4月1日付で、矢野監督を理解して支えてきた谷本修球団副社長が、取締役・スポーツ・エンタテインメント事業本部長として阪神電鉄本社に帰り、後任の副社長として球団取締役の粟井一夫氏が戻ってくることが発表された。谷本氏は、今後、球団オーナー代行の立場で球団をバックアップしていくことになるが、1月1日に百北幸司氏が新社長に就任しており、球団のトップ2人が交代する人事が矢野監督の退任表明と無関係ではないと見る向きもある。だが、ある球団関係者は「今回の人事と矢野監督の退任表明は関係ない」と完全否定していた。そもそも、この球団人事を発令した阪急・阪神ホールディングスの意図が見えにくいが、球団と矢野監督は、昨シーズンの最後の最後で逃した栄冠を勝ち取るためにリスクとメリットの両面を持つ”大バクチ”を打ったことになる。 キャンプイン前日に今季限り退任を非公式に表明した例はなくはない。故・星野仙一氏が中日監督時代に「この道を歩くのも今年が最後」とキャンプ初日の朝の散歩で「今季限り退任」をほのめかしたことがある。実際、そのオフに退任したが、選手に伝えたわけでも正式表明したわけでもなかった。 「矢野辞めろコール」は封印できるが、一歩間違えば、次期監督問題がフィールドの話題より先行してしまう危険性があり、結果が伴わない場合に、矢野監督の求心力がなくなり、チームがバラバラになる不安があるだろう。