世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.129「小椋藍のチャンピオンは普段からの努力の賜物」
トレーニング用バイクを7、8台も所有
藍くんがチャンピオンになれたのは、いくつかの要素があるでしょう。最初に挙げたいのは、彼自身の努力です。藍くんはとにかくバイクに乗ってトレーニングを重ねていました。それによって負傷することがあっても、決してやめない。とにかくバイクに乗る。2年前に話を聞いた時は、「トレーニング用バイクが7、8台ある」と言っていましたが、時間さえあればバイク、バイク、バイクだったようです。 しかも彼は、ミニバイク、モトクロス、ダートトラックと、いろんなカテゴリーのバイクに乗るんです。そしてどれも器用に乗りこなしてしまう。もしかすると、本人には「器用」という意識はないのかもしれません。それがトレーニングを欠かさないモチベーションになっているのでしょう。いずれにしても、バイクに乗って努力すること。これが彼の最大の強みになったと思います。 今年の彼は、チーム体制がイデミツ・ホンダ・チーム・アジアからMTヘルメットMSIに変わり、フレームがカレックスからボスコスクーロに変わり、Moto2のワンメイクタイヤもダンロップからピレリに変わりました。それらのすべてがバチッとうまくはまったのも、大きかったでしょう。これも、普段からの彼の努力──トレーニング量の賜物です。いろいろな変化にスムーズに対応できたのは、あらゆるバイクに乗り、あらゆる状況を経験していたからに他なりません。 藍くんは来季、アプリリアのサテライトチーム、トラックハウス・レーシングからMotoGPにチャレンジします。乗りこなすのは簡単ではなく、苦労もあると思います。でも、多少は時間がかかったとしても、努力を惜しまない彼ならMotoGPでも活躍してくれることと期待しています。 チャンピオン獲得のもうひとつの大きな要素は、非常にクレバーなことです。2年前はシーズン終盤のマレーシアGPで転倒して惜しくもチャンピオンを逃し、昨年は開幕前のケガによる不調に苦しみ、今シーズンも中盤に再びのケガ……。決して楽な戦いではなかったはずです。しかしそういった苦い経験を、すべて自分のものにしながら蓄積し、引き出しを増やしていきました。これが強さの源になったのだと思います。