日本の昔ばなしに「山」が多く出てくるわけ「あの昔ばなしの舞台はどこ?」
■金太郎 ~知名度の割にストーリーが知られていない~
【ストーリー要約】 川に流れ足柄山で生れた金太郎は、元気で強く優しい子どもに育ち、熊と相撲をとるなどしていた。やがて、たまたま現地を通りがかった源頼光に力量を認められた金太郎は、その家来となり、都である京都に移り住み「坂田金時」と改名。「頼光四天王」のひとりに数えられる武士となる。 また、都においては、人々に悪行三昧を繰り返す鬼の棟梁「酒呑童子」に眠り薬入りの酒を飲ませたうえで退治するなど目覚ましい活躍をする。その後、九州の賊を退治するために移動中に熱病にかかり惜しくも死亡した。 「金太郎」のストーリーを明確に記憶している人は少数派ではないだろうか。アイキャッチ的な要素が溢れる「桃太郎」や、SF的な展開のある「浦島太郎」と異なり、ストーリーや設定にフックや山場がなく、熊と相撲をとったという部分だけが独り歩きしているのがリアルなところだろう。 その代わり「金太郎」は舞台だけは明確である。生まれ育った山として「足柄山」が登場するのだ。しかし、Googleマップで足柄山という山は表示されない。なぜなら、足柄山とは、箱根山の北西部に位置する金時山(1,212m)から足柄山地の足柄峠にかけての山々を指した名称だからだ。 ただし、金時山以外にも、神奈川県南足柄市、兵庫県川西市、滋賀県長浜市などにもいわゆる“金時伝説”が伝えられている。 最後に、金太郎が仕えた源頼光は生きた時代が源頼朝とは異なるので、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には登場しないことを付け加えておきたい。 ●結論 熊と相撲をとったのは首都圏で人気の山域。他の複数の地域にも伝説は存在する
■かちかち山~実は残酷な復讐劇が実行された場所は? ~
【ストーリー要約】 悪質な嫌がらせをするタヌキを捕獲したおじいさんが、おばあさんに「タヌキ汁にするように」と伝えて外出。ところが、タヌキは反省しているふりをしておばあさんを撲殺。さらに遺体を汁状の料理に調理、おばあさんに化けて帰宅したおじいさんに食べさせるという猟奇的な行為を行う。 復讐を託されたウサギは、タヌキの背負う柴に引火する、ヤケドした箇所に唐辛子入りミソを塗るように仕組むなどする。最後にウサギはタヌキを泥舟に乗せて漁に連れ出す。やがて、泥舟は沈みタヌキは溺死。 昔ばなしは残酷な内容であることが多いが、「かちかち山」はその極みだ。今日では子ども向けの本ではソフトに改変されているとか。 「かちかち山」は、ウサギがタヌキを誘って柴刈りに行く場面に登場。その帰路に、ウサギは背後で火打ち石を使ってタヌキの背負う柴に引火を試みる。ここで、火打ち石を叩く「かちかち」という音を不審に思ったタヌキに、ウサギは「ここはかちかち山だから、カチカチ鳥が鳴いているのだ」と偽るのだ。 実は「かちかち山」には、特定の舞台が設定されていない。しかし、太宰治が短編集「お伽草子」のなかで、「かちかち山」を河口湖畔の裏山の出来事としたため、地元では河口湖と湖畔にある天上山(1,140m)を「かちかち山」として、泥舟が沈んだのは河口湖だとしてPRしている。ただし、天上山に架かるロープウェイは、以前は「カチカチ山ロープウェイ」だったが、数年前にインバウンドを意識して「富士山パノラマロープウェイ」と改称した現実もある。 ●結論 グロテスクで猟奇的な物語の舞台は不明確も、昭和になって太宰治が河口湖畔の山に設定した