なぜ指導者は大声で怒鳴りつけてしまうのか? 野球の育成年代に求められる「観察力」と「忍耐力」
いまなお旧態依然とした体制のままだというイメージも根強い日本野球界の育成環境にも少しずつ変化が起こっている。そんな中、育成年代にリーグ戦を定着させ、さらなる変化を起こそうと精力的に活動している人物が阪長友仁氏だ。2015年に阪長氏が創設したリーグ戦「Liga Agresiva(リーガ・アグレシーバ)」は、現在、全国各地で160校以上が参加している。そこで本稿では阪長氏の著書『育成思考 ―野球がもっと好きになる環境づくりと指導マインド―』の抜粋を通して、数多くのメジャーリーガーを輩出するドミニカ共和国の地で阪長氏自らが体感した育成環境と指導法を参考に、日本の野球育成年代に求められている環境づくりについて考える。今回は、指導者と選手の理想的な関係について。 (文=阪長友仁、写真提供=東洋館出版社)
指導者と選手、どっちが上?
「お前はなんでこんなプレーもできないんだよ!」 野球の指導現場で時折、指導者から耳にするセリフです。嘆くように言う人もいれば、怒鳴りつける指導者もいます。 でも、「なんでできないんだ?」と言う時点で、指導者が存在する意味はなくなってしまう。一緒にできるようにしていくのが指導者の役割だからです。そもそも指導者=「コーチ」の語源はギリシャ語にあり、「馬車」という意味です。英語で「Coach」と言うと、「バス」という意味もあります。 つまり、A地点からB地点に連れていくのがコーチの役割です。言い換えれば、指導者の仕事は選手が望む場所に送り届けること。野球で言えば、選手ができるように寄り添っていくことが求められるわけです。 ではなぜ、日本の指導者は大声で怒鳴りつけてしまうのでしょうか。 一つは、環境要因が大きいと思います。ほとんどの大会はトーナメント戦で行われるので1回も負けられません。勝つことが次の試合に進む条件であるため、指導者にも勝利へのプレッシャーが過剰にのしかかり、選手にすぐに結果を出すことを求めてしまいがちです。 もう一つは、選手とコーチの関係性です。大人のコーチに対し、育成年代の選手たちは学生です。年の差も20歳以上離れていることが大半だからでしょうか、コーチたちからしばしば聞かれる言葉があります。「選手に舐められてはいけない」というものです。 舐められるというのは、本来は自分の立場が上であるはずなのに、下の者から見下されるということです。チームを指揮する者にとって受け入れ難い状況かもしれませんが、そもそも「舐められてはいけない」という時点で、“指導者が上、選手が下”という関係性ができ上がっています。