なぜ指導者は大声で怒鳴りつけてしまうのか? 野球の育成年代に求められる「観察力」と「忍耐力」
信頼関係を築くことができる「グータッチ」
日本でもプロ野球の場合、阪神タイガースの岡田彰布監督は活躍した選手をハイタッチで称えています。勝利した直後、どの球団でも監督、コーチが選手たちとハイタッチを交わして迎え入れています。 ところが学生野球の指導者には、「選手とグータッチすることなんてできない」と言う人がいます。学校で普段、「先生と生徒」という関係であるからか、または野球部の顧問が生徒指導主事を務めて厳しい指導を求められる立場にあることが多いからか、スポーツチームの「監督と選手」になっても対等な目線に立てないのです。 でも選手の立場からすれば、タイムリーヒットや好プレーでベンチに帰ってきたとき、監督がグータッチで迎えてくれたらうれしく感じるのではないでしょうか。指導者のちょっとした振る舞いで、選手たちに大きなモチベーションを与えられます。 選手がパフォーマンスを高めることや、成長していくこと、目の前の試合で勝つことを考えても、一緒に勝利を目指す仲間であったほうがいいと思います。 そうした関係になるためにも、ドミニカのコーチは選手と同じ目線に降りていきます。 そうすることで両者が対等になり、本音でコミュニケーションを図れ、信頼関係を築くことができるからです。
指導者に求められる観察力&忍耐力
選手と指導者が対等な関係になれば、当然コミュニケーションを図りやすくなります。 もちろん急に関係性をガラッと変えるのは難しいかもしれませんが、指導者は選手の成長に寄与していく必要があります。少しずつ関係を変えていったほうが、コーチングもやりやすくなるはずです。そこで問われるのが、どんなタイミングでどのようなアドバイスをしてあげられるか。 その肝になるのが、「観察力」と「忍耐力」です。 選手たちに対し、「怒ってはいけない」という話を先述しました。そのイメージが強すぎると、「黙って見ていればいいんですね」となるコーチもいます。 しかし、単に見ているだけでは十分ではありません。今日のパフォーマンスは、昨日からどう変化しているか。先週の試合ではうまくできていたのに、今日の練習で失敗ばかりしているのはなぜか。ジッと目を凝らし、その理由がどこにあるのかを観察していきます。 じっくり見守っていくことで、どこに原因があってうまくできないかがわかるようになっていくでしょう。その上で「こうしろ」と言うのではなく、選手から意見を求められたときに的確に伝えられたり、「こんなメニューもあるよ」と提案してあげられたりするのが文字どおり“コーチ”の役割だと思います。 日本の指導現場を見ていて感じるのが、選手側からコーチに質問する機会が少ないことです。 「ここをもっとうまくなりたいんですけど、どうすればいいですか?」 「どういう練習をすれば、この課題を克服できますか?」 選手からそうした問いかけが出るようになると、コーチはなんとか解決してあげたいと必死で考えます。そのとき、選手のことをじっくり観察しておかないと的確なアドバイスはできません。 さらに各自の性格を見極め、A選手には「この練習をすれば、君のスイングは良くなると思う」とストレートに伝える一方、B選手には「今はアッパースイングになりすぎているから、もう少し入射角を抑えたらどんな打球になると思う?」などと考えさせる話をしたほうがうまくいくことがあります。選手たちの性格や考え方を理解し、アドバイスの仕方を変えていくのもコーチの手腕です。 また、選手たちが自ら聞いてこられるような環境づくりや、コーチの振る舞いも大事になります。積極的に意見を言えない選手に対しては、野球ノートに書いてもらって紙ベースでやり取りする。今どきの選手なら、LINEを使ったほうがコミュニケーションをとりやすいかもしれません。 どのタイミングで、どんな伝え方をすれば、最も選手の胸に響くか。それらを見極める「観察力」と、選手にとって必要なタイミングまで待つ「忍耐力」はコーチにとって極めて重要な能力です。