なぜ指導者は大声で怒鳴りつけてしまうのか? 野球の育成年代に求められる「観察力」と「忍耐力」
できない選手がいるから指導者が存在している
日本では昔から選手とコーチの関係はそのように考えられてきましたが、両者が上下関係になるのは伝統的価値観とも関係があります。我が国では古くから年功序列が重視され、年長者は敬うべきだという考え方があるからです。もちろん、自分よりたくさんの経験を積まれてきた方を敬うのは大切です。でもスポーツにおいて、同じ人間である選手と指導者は対等であるべきだと思います。 両者の間にリスペクトは存在するべきですが、「選手に舐められてはいけない」となるのは違う。もしコーチがそのように振る舞うと、思考がネガティブな方向に行き、いろんなことを厳しい口調で言うようになるからです。そうして選手たちとの距離はどんどん離れてしまい、選手たちは「はい」「わかりました」しか言えなくなる。いわゆる“恐怖政治”に陥り、コミュニケーション不全になります。そうなるとコーチの指導がハラスメントのように行きすぎても、周囲が止められなくなります。現代の子どもたちの気質を考えても、そうしたチームがうまくいくはずがありません。 一方、指導者が選手たちをリスペクトし、対等な関係で付き合おうとしたら、「舐められる」ような間柄にはならないと思います。具体的なアプローチは後述しますが、指導者は「自分が上の立場だ」という考えや振る舞いをせず、選手たちの成長のために何ができるかを考える。「ここから成長していくために、どんな練習をしていこうか? こんなメニューをやれば課題克服につながると思うよ」と選手にとって必要な提案をしていければ、互いのリスペクトは深まっていくはずです。 もし「なんでできないんだ!」という感情が芽生えたときには、「できない選手がいるから自分がここに存在しているんだ」という意識を持つことが大切だと思います。
選手をリスペクトしよう。三振したくてする選手はいないのだから
コーチと選手の関係性で言うと、前者のほうが上になりがちなのはドミニカでも同じです。どの選手に多くの出場機会を与えるのか、プロなら誰の契約を延長してどの選手は打ち切るのかなど、いわゆる“人事権”を握っているのはGM(ゼネラルマネジャー)などフロントスタッフやコーチだからです。 指導者は選手の“その後”に影響を及ぼす存在だからこそ、よく言われるのが「選手をリスペクトしなさい」ということです。 言うまでもなく、三振したくてする選手はいませんし、ミスをしたくて犯す人もいません。人間なので誰しも、普段より弱気になっていたり、自信をなくしていたり、気分が乗らなかったりする日もあるはずです。 でも、誰しも根底には「活躍したい」という気持ちを持っている。みんな、いいプレーをしてチームの勝利に貢献したいと思っています。だからこそ、選手の根底にある気持ちをコーチはリスペクトしてあげるべきです。 具体的にはどうすればいいでしょうか。例えばドミニカでは、選手がいいプレーをしたときには顔と顔を向け合い、「今のは良かった」という意味を込めてコーチからグータッチを求める。ツーベースを打った選手は、ベンチに向かって右手を挙げて「よっしゃあ」という喜びを伝える。指導者は選手と同じ目線に立ち、「君がいいプレーをして、僕もうれしいよ」と全身で伝えていくのです。それに対し、選手も同様に喜びを示します。 逆にエラーをしてベンチに帰ってきた選手には、コーチが横から肩やお尻をポンとたたいて、「大丈夫だから、気にするな」とメッセージを送る。そうした積み重ねが選手とコーチの信頼関係につながっていき、選手は「次こそ頑張ろう」と前向きに取り組んでいけるようになります。