職場の人間関係がつらい...心理学から考える「逃げる決断」のタイミング
逃げる
「この職場でがんばってみたけれど、もう潮時かもしれない」「このコミュニティでは上手くやっていけない」という人には、もうあきらめて逃げたくなるときがあります。 しかし、「今までがんばったんだからもったいない」と考えてしまったり、「もうちょっとがんばれば上手くいくかもしれない」と「あとちょっと」を期待したりして、逃げ時を失うこともあります。そこで、どんなタイミングで「逃げる」べきなのかについて考えたいと思います。 私が「逃げる」を考える上で一番大切なのは、「自分の気持ち」だと思います。どっちを選んだ方が自分の気持ちがモヤモヤしないか。まだ見届けたいことがあって、逃げた方が後悔するのであれば踏ん張る。ここにいること自体が辛くて仕方がないので、逃げない方が後悔するなら逃げる。基本はこれでいいと思います。「自分の気持ち」とは、もっと言えば「自分の納得」でもあり、自分軸とも言えます。 しかし、この考え方だけだと危険があります。自分の気持ちは素直に表出するわけではないからです。本当は違うことを感じていても、現状で気持ちを落ち着かせるために、自分の本音に加工をしてしまうことがあるからです。それらについて3つの視点から解説をしていきたいと思います。 ①サンクコスト 人はそれまで費やした時間や労力が無駄になることを嫌う性質があります。この今まで費やした時間や労力のことをサンクコスト(埋没費用)といいます。簡単に言えば「今までがんばったのにもったいない」ということです。そのため、冷静に考えれば今すぐにでもやめるべきなのに、続けてしまう。そしていつの間にか損失が大きくなってしまう。これがサンクコストの罠です。 ②正常性バイアス 人は、とんでもない危険な状態になっていても「まあ大丈夫だろう」「何とかなるだろう」と考えようとすることがあります。これを正常性バイアスといいます。 たとえば煙がもうもうと立ち込めていても、誰もが「火事だ」と気が付いて逃げ出すわけではありません。「何か知らないが煙が多いな、まあ大丈夫だろう」と大事になるまで動かない人も大勢いるのです。 職場でも、かなりやばい状況になっても「まあ大丈夫だろう」とぎりぎりまで動かない人もいます。そして気が付けば会社がなくなるだとか大事になることもあります。正常性バイアスが強い人も逃げ時を見失いやすいと言えます。 ③防衛機制 防衛機制は心理学ではよく用いられる言葉です。簡単に言えば、「現実をそのまま認めると葛藤が生じるため、自分の気持ちに加工してしまう」のが防衛機制です。防衛機制には様々なものがあり、いくつかの防衛機制は現状を正当に評価する妨げになります。 たとえば、有名なのはイソップ童話の「すっぱい葡萄」でしょう。自分には取れない葡萄のことをキツネは「あれは酸っぱい葡萄だから食べられなくていいのだ」と思ってしまう。ここでは、自分を正当化して気持ちを落ち着かせようとする防衛機制の「合理化」が働いています。 これらを踏まえると、「逃げる」判断は遅くなる可能性の方が高いと考えても良いでしょう。①も②も③も、無意識のうちに働いてしまうので、完全に影響を受けないようにすることは難しいかもしれません。「こういったものがある」と知っておくだけでも充分です。