日本の住宅、夏は暑くて冬は寒い! 断熱が絶大な効果をもたらすって本当?
高橋:少しずつ断熱性能の基準を高める動きが出てきてはいるのですが、まだ十分とはいえません。2025年に最低基準として義務化される断熱等級4でも、他の国では断熱性が低すぎて建てることができない、要するに違法建築レベルなんですよ。
――なぜ日本の断熱基準(※)はこんなにも低いのでしょうか? 高橋:いくつか要因がありますが、行政が、住む人の健康や幸せよりも、住宅・建築業界団体の利益や都合を優先してルールを作ってきたという面があります。特に、新築着工数を上げることが大事とされる中で、個々の住宅の質については問われることがありませんでした。断熱基準を高めると建築コストが上がってしまうということもあったでしょう。 また、住宅の場合、輸出をしないので国際競争力が働かず、業界共通の物差しがなかったことも、基準が低い原因だったのではないかと分析しています。自動車の燃費性能や家電の省エネ性能のようなものが、住宅には統一した基準として表示されていませんでした。 ※2024年4月からは住宅・建築物を販売・賃貸する事業者に、省エネ性能ラベルの表示することが努力義務となった ――他の先進国では、そうではないというわけですね。 高橋:ええ。断熱性能が低いと環境にもよくないし、個人の生活においても健康被害が出たり、光熱費も高額になったりと、QOLが下がり幸せを妨げる原因の1つになるということが分かっているのだと思います。 ヨーロッパでは20~30年前から、断熱に関する規制がされていて、ドイツなどはその基準が年々レベルアップしています。 ――断熱性能が低いと、健康被害も出るのですか? 高橋:はい。一番注意すべきなのは、急激な温度変化により、脳卒中や心筋梗塞を起こす、ヒートショックですね。日本の住宅は基本的にリビングや個人の部屋にしかエアコンがなく、部屋によって室温に大きな差があります。 特に死亡事故につながりやすいのが浴室です。入浴中のヒートショックで亡くなる人は、2011年に約1万7,000人と推計されたこともあります。同年の交通事故人数は4,611人ですから、家の中で亡くなっている人の方がはるかに多いんです。 また、夏の熱中症でも主に室内で倒れて搬送される方が全体の4割を占めています。夏も冬も、断熱性能が低いことで健康面に大きなマイナスの影響を受けているのです。