なぜ日本はラグビーW杯開幕戦の想像を絶する重圧を乗り越えロシアに逆転勝利できたのか?
東京スタジアムが暗転すると和をイメージした開会式で国内外のファンが歓声をあげる。選手たちがウォーミングアップへ出てくるころには、ピッチレベルに有名タレントがずらりと並んだ。 整列した両国代表の前で平原綾香が『君が代』を歌い終わった時、日本代表の肩を組んでいたインサイドセンターである中村亮土が隣にいたスクラムハーフの流大に笑いかけ、次の瞬間、感極まって手で目を覆った。 10年前に招致が決まったラグビーワールドカップの日本大会が20日、開幕した。史上初の8強入りを目指す日本代表は2大会ぶり出場のロシア代表に30―10で勝った。アイルランド代表など強豪のひしめく予選プールAにあって、4トライ以上獲得でもらえるボーナスポイントを含め、勝ち点5をマーク。しかし、司令塔の田村優はテレビのインタビューでこんな話をしている。 「僕は、10日間、緊張して、ずっと眠れなくて。勝たなきゃいけない、ボーナス(ポイントを)取らなきゃと、いろんなものがかかってきて、きょうは早く終わってほしかった」 地元開催ゆえの想像を絶するプレッシャーである。 ロシア代表ボールでキックオフ。リーチ マイケルキャプテンが飛んでくる、そのキックを後逸した。さらにふもとにいたナンバーエイトの姫野和樹が、こぼれたボールをファンブル。直後の守備局面は相手のミスで終わったかと思えば、ボールを蹴りだそうとするスタンドオフの田村優が神出鬼没のチャージを食らう。あわや失点という場面に、場内は騒然とした。姫野の述懐。 「国歌斉唱の時、熱いものがこみあげてきて…。気持ちが上がり過ぎた分、ファーストプレーで視野が狭くなったとは思います」 極度の緊張。通常の精神状態ではなかった。 前半4分に先制点を失ったきっかけは、自陣22メートルエリア左でのフルバックのウィリアム・トゥポウのキャッチミスだった。目の前に相手がいないなか、赤と白の15番は、相手の蹴った高い弾道のキックの目測を誤った。指の先でバウンドしたこぼれ球は、そのまま対するウイングのキリル・ゴロスニツキーにさらわれた。 日本代表がこのグラウンドでナイトゲームをしたのは2016年6月が最後で、当時は現指揮官就任前。今回も試合前日練習はロシア代表が夜だったのに対して日本代表は午前中だった。さらに言えば、前日と当日は前回大会にはなかった移動時の道路渋滞に巻き込まれ、会場到着後は開会式中のタイムラグに待ちぼうけを食らう感じだったようだ。