なぜ日本はラグビーW杯開幕戦の想像を絶する重圧を乗り越えロシアに逆転勝利できたのか?
自陣22メートル線付近左でミスボールを拾った日本代表は、レメキのランと途中出場したスクラムハーフの田中史朗のキックで一気に敵陣ゴール前まで陣地を取る。 ロシアが苦し紛れに蹴り返したボールを受けると、すでに準備していた攻撃ラインでスムーズに仕留めにかかる。 2分前に投入されていたスタンドオフの松田力也からボールをもらった松島が、日本人選手で初となるワールドカップでのハットトリックを記録した。 戦前に「3トライを取る」と話していた松島は、試合後「有言実行ができた」と語った。 直後のゴールも決まってスコアは30-10となった。ただしノーサイドの瞬間、満員のスタジアムへ向けてリーチは「緊張を抜けて、また来週からいい準備しよう」と話した。公式発表で「45745人」の観客の後押しには、「最高でした」と謝辞を述べたが、自分たちの精神状態にはしっくりこなかった様子だ。 プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた松島も「しっかりどこにスペースがあるかを内(側の選手)に伝えることはできたのですけど、途中でミスがあった。(それがなければ)チームとしてもっとトライできたと思います」とし、途中で退いていた田村もいつ緊張が解けたかと聞かれてこう応じた。 「いやいや、ずっと解けなかったです。楽しみな試合ではありましたけど、何て言うんだろう…見えないものと戦っている時間が多かったです」 複数選手の談話を総合すれば、「目に見えないもの」と戦いながらも心の落ち着いた選手のパフォーマンスもあって欲しいものを手にした格好だった。
姫野はファーストプレーで落球しながらその後は持ち直す。カウンターアタックから鋭いランを披露し、「(チームで)用意したプレーができた」と、反省しつつも安どした。 さらにフランカーのピーター・ラブスカフニは、自らターンオーバーしてそのまま走り切ってトライするなど身体接触の局面で強さを発揮。堀江は、接点への鋭い援護で連続攻撃を下支えした。 「ちゃんとやれば(問題ない)という感じだったので、落ち着いて、いい判断をして声出して、ということは意識できた。こういう(思い通りにいかない)展開になることは頭に入れていたので、想定内のことでした」 ストレスフルなオープニングゲームを通して、いつでも頼りになる選手を明確にした日本代表。28日には、世界ランク1位のアイルランド代表とぶつかる。 2017年6月にはレギュラーを揃えていなかった同国に2連敗。今回、揃うであろうベストメンバーには破壊力抜群のナンバーエイトのCJスタンダー、大きくて速いウイングのジェイコブ・ストックデール、好判断が光るスタンドオフのジョナサン・セクストンと、今日の舞台で対峙していたらもっと苦しめられた才能が並ぶ。 日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「今度は難しい試合になります。つまり、プレッシャーはまだ残っています」と認める。 「ただ、そのプレッシャーは心のなかの問題です」 ロシア代表戦でも試合終盤に防御ラインの乱れを突かれるなど、緊張とは無関係そうな課題も見え隠れした。日本代表が静岡エコパスタジアムのファンを大喜びさせるにはまず、グラウンド外の事象を含めたチェック項目をひとつでも多くつぶすほかない。 (文責・向風見也/ラグビーライター)